夕暮れ時、屋上にて。
直接的な表現はなく、微百合風味です。
屋上のフェンス越しに見上げた空は鮮やかな赤黄色。
これだけ綺麗な夕焼けならば、明日はきっと晴れに違いない。
そんな取り留めのない考えを中断させたのは背後から聞こえた足音。
「こんにちは」
振り返らずとも声だけでわかる。
というよりも、自分自身を除けばここにくるのは彼女くらいなものだ。
「こんにちは、先輩」
くすりと彼女が笑う。
「空、好きなの?」
「どうしてそう思うんです?」
問いに問いで返すも彼女は別段気にした様子もなく答える。
「わたしがあなたを見かける時、いつもあなたはそうやって空を見上げているから」
「そうでしたか? 自覚ありませんでした」
そんなに空ばかり見ていたっけ?
「まぁ、確かに空は好きですよ。ずっと見てても飽きないし。同じように見えて全然違う。同じ空は二度とやってこない。春夏秋冬、一分一秒ごとに違った表情を見せてくれますから」
数秒の沈黙の後、彼女が口を開く。
「あなたって……」
「なんです?」
「意外とロマンティストなのね」
楽しげな声音。
意外とって、それはいくらなんでも些か失礼ではないだろうか。
そう思うものの、相手が先輩なら今更だ。
「先輩はどうなんですか? ずっと見ていても飽きないものって何かありますか?」
「えっ、わたし?」
先輩は自身を指さしきょとんとする。
「そうです。ほんの少しだけ興味があります」
「あら、私に興味を持ってくれてるの? 嬉しいわ。う~ん。そうねぇ」
チラリと様子を窺うと、目を瞑り眉間には軽い皺、手は口元のシンキングポーズ。
そのまま30秒程が経過するも、彼女はまだ悩んでいる様。
それほど真剣な質問ではなかった分だけ、なんだかちょっぴり罪悪感。
もう少し待ってそれでも彼女が考えていたら『そんなに考えて無理に答える必要はありませんよ』とでも言うとしよう。
そんなことを考えていると、彼女が呟いた。
「――た」
「え?」
小さくてよく聞き取れず聞き返す。
「だから“あなた”だって。わたしがずっと見ていても飽きないもの。それはあなたよ」
驚いて振り返る。
慌ててそっぽを向く彼女。
目が合うと少し恥ずかしそうはにかんだ笑みを浮かべる。
「な、なにを……」
柄にもなく狼狽えてしまう。
そんな私の様子を、彼女は楽しそうに見つめている。
「あ、もしかしてからかったんですかっ!?」
彼女はそれに答えない。
何も言わず、再び視線を逸らす。
その頬が赤く染まって見えたのは夕焼けのせいか、それとも……。
約7年程前に書いたものですが、データを見つけたので投稿させていただきます。
ふと見上げた空が綺麗な夕焼け色に染まっていたのを見て書きました。
当時他のサイトに投稿させていただいたものに、ほんの少しだけ手直しを加えてあります。