一華
ぐうぐうぎゅるる~
限界を訴えるお腹の音と目眩に私は噴水にもたれ掛かる。
つい衝動的に走りだしてしまった。
そして、がむしゃらにはしって…
気づけばあの場所を抜け出してしまっていた。
外に出てみれば…なんだ、こんなに簡単なことだったのかそう思った。
ならば、このまま…行けるのではないか?
そう舞い上がったのは一瞬だった。
お金がない。
私の手持ちは何もない。
お財布すらない。
そもそもお金を見たことがない。
この国のお金がどのように使われているのかも。
故郷にいたときは物々交換がほとんどで、使われていた通貨もちがうものだったから。
噴水を背に座り込むと目の前には大きな聖女の絵。濃緑の神子服に白い可憐な花を持つ少女の絵。
大層な御輿にかつぎあげられ、立派な椅子に座らされて…
けれど何一つわからないまま時だけを重ねてしまった。
ぐぎゅるる~
どんなに空腹を訴えても…どうするすべも私は持って無い。
そういえばもうどれくらい人らしい食事を取っていなかったのだろうか…
ぼんやりとあたりのさざめきを聞くともなく聞いていた。
威勢のいいものうりの声、
母を呼ぶ子供の声、
きゃあきゃあとはしゃぐ子供たちの声、
靴音、荷車の車輪が石を噛む音、微かに聞こえる音楽…幸せそうな日常の音。
来たときはこの噴水に水はなくて、人々は皆飢えと恐怖に怯えていたのに
今は噴水に水が満ち花が溢れ人々の活気あふれる声が途絶えない。
その、対価として差し出されたものは…
そ
くらりとめまいがすして立てた足の間に顔を埋めた。。
私だけ、変われなかったからこうなったのかな。
小さな田舎娘が知らない場所で、知らない国で、大人たちにいいようにつかわれて。
何もわからぬまま大人になって…そんな私に何ができるというんだ。
あれから10年は経ったというのに。
ジャリ
砂を硬い靴底が踏む音。
目の前で止まったその汚れた靴先をみつめる。
すると目の前に白い湯気をたてる蒸し饅頭が差し出された。