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タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。

「め」 ‐女・眼・芽‐

作者: 牧田沙有狸

ま行

「彼女のメールは滅入る」

と、つまんない言葉遊びを頭の中で連想しこの不愉快な気持ちを笑った。

 

前の職場で一緒だった彼女のメールは、いつも短くて一番肝心なことを書かない。

あえて書かないで、こちらが心配して「どうしたの?」と返ってくるのを期待しているのが分かる。

まるで臆病な男と恋の駆け引きでもしているのか、きっかけは与えるけど後はそっちが主導権を握ってと言っているみたいだ。従順な女を気取ってるけど、実は上から目線。彼女との恋を期待している男はその見え見えの茶番に乗って歯の浮くセリフに酔いしれるかもしれないけど、

「あたし、女なんですけど」

そうぼやかずにはいられんない。

結局、あいまいな意思表示は傷つきたくないから相手に進展を委ねているんだ。

相手が期待はずれな方向にいたことに気付いたら、「そんなつもりで言っていない」と言えばいい。逃げ道を確保するための自己防衛。

そんな彼女の強かさが、女のあたしには分かりすぎる。


数分で昼休みが終わるオフィスで、あたしは苛立ちを溜息に乗せながら、不愉快なメールを受信したケータイを机に置いた。軽く置いたつもりだが、ケータイは机に出しっぱなしの処理済み書類の上にスライドして予想以上に移動し、飲み残しのコーヒーが入ったインサーとカップの黒い足を突いた。溜息の圧力は思わぬ力を発揮して、カップは膝かっくんをされた隙だらけの人みたいに簡単に倒れこんだ。そして、身をもって復讐をしているかのようにケータイに中のコーヒーをこぼしてくれた。

「げ、ちょっと、やだ」

あたしは焦ってケータイを救い出した。この程度の水分じゃ壊れやしないけど、「疲れているときは甘いもの~」と言い訳がましく砂糖をたっぷりいれたのでべたつく。

「最悪」

なんかのキャンペーンで道で配っていたウエットティッシュが机に入れっぱなしだったのを瞬時に思い出し、それを出してあたしはケータイの表面を拭いた。

ほのかに香るアルコールがメールとコーヒーで悪い気を被ったケータイを清めてくれるような気がする。

「どうしたの?」

半笑いな口調で斜め前の席の眼鏡男子が聞いてきた。

一応同僚。まあまあカッコイイけど、それを鼻にかけているので、あたしは苦手であまり交流しようしない。向こうもこんな地味な女は興味ないという感じなので、仕事以外はあまり会話を交わさない。

「別に」

「ふーん。ちょっと聞いてよ~ってオーラ全開だけど」

「え?!本当に」

「さっきから、変な笑い方してあたし女なんですけどとか、溜息ついて最悪とか、何?彼からメール来なくて、女として相手にされてないことへのぼやき?」

「は?」

彼女への苛立ちの独り言は思わぬ解釈をされていた。

痛い女の行動を面白がるモテ男の意地悪。そんな感じがしたが、大いなる誤解よりも自分も他者に「どうしたの?」を言われるのを待っている女だと思われたことに、ものずごい恥ずかしい気持ちになった。

これじゃ、彼女と同じじゃん。

あたしは、気まずそうに眼鏡男子をちら見した。

眼鏡の奥の目がバカにしている。

ああ、この男は分かっていながら「どうしたの?」と言って、適当にあしらう術を知っているタイプなんだろうな。あたしも、友達なのか微妙な「彼女」にそういうスタンスでいられればいいのに、なぜか熱くなっている。

あたしは、むきになって誤解を解くのも悔しいので平静を装った。

「違う、ちょっと面倒くさい女友達にムカついただけ」

「ふーん、面倒くさい?」

「さみしがり屋なのかさ、ちょっと滅入る内容を中途半端に送ってくるんだよね」

別にこの男に愚痴を聞いて欲しいわけではないが、どうしたの?と聞かれてあえて言わないほど、彼女との友人関係が大事なものではないのであたしは答えた。

我ながら簡潔な状況説明だ。

「ふーん」

「聞いて欲しいならちゃんとそう書けばいいのにさ、聞きたい? あんたが聞きたいなら言うけどさ、みたいな書き方するんだよね」

「いるね、そういう子」

「男には、どうにかしてあげたくなっちゃうんだろうね」

「俺はそう思わないけど」

「え」

ちょっと、意外だった。

ウザい女は男女共通ってことなんだろうけど、この苦手なタイプの男が自分の味方をしてくれたような気がしてしまった。自分に都合のいいその解釈は、無意識に愚痴を続けさせた。

「傷つきたくないってのが、見え見えでイラつく」

「じゃあ、ガツンと言って傷つけちゃえばいいじゃん」

「そんなことできないよ」

「なんで」

「可哀想」

「可哀想? でも、ムカつくんだろ」

「うん。だけど」

「じゃあ、忙しいとかテキトウなこと言って無視すれば」

「それができたら苦労しないよ」

「結局、自分も傷つきたくないんだな」

「え」


自分も傷つきたくない…

奥の奥まで見透かされたようで、誤解されたさっきよりも恥ずかしい気持ちになった。

そうかもしれない。

もしも彼女が男だったらガツンと言いたいこと言って、ずっと会わない関係になってもいいやと思える。心のどこかで、同じ女だから分かるでしょうという態度の彼女に苛立ちながらも同じ女だから同情している。自分も同じ思いしたらとか、自分が傷つけられることも怖れてる。不確かな次の段階まで予想して、あたしは彼女に苛立っている。

彼女を友達だと思うなら、ガツンというべきなんだ。それで傷つき去っていくならそれまでの関係で、それで自分も傷つく必要はなんてないんだよね。


「付き合って話を聞くか、全く相手にしないか、どっちかだな」

「そうだね」

「見え見えといいつつ、見えないもんに苛立てるのは損だぜ」

「うん……」


苦手な眼鏡男子の審美眼は意外とすごいんじゃないかと思えた。

恋が芽生えそうになったので、あたしは目を反らした。



ミニコミ誌「minority」8号 掲載作品

  (高円寺 みじんこ洞)



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