出会い、そしてノーブラ。
恋とはなんなのだろう。
誰かを好きになるってことだろうか。
じゃあ好きになるとはなんなのだろう。
難しいことは学者さんが考えてくれてるだろう。
ただ、その人と幸せになりたい、そう思えたら好きってことだとあたしは思う。
私は恋をしたい。誰かを好きになって愛したい。誰かに好きになって愛して欲しい。手を繋いで、バカみたいな話をして、笑いたい。結婚して子どもが欲しいだなんてワガママまでは言わない。少しの間でいい、幸せで素敵な時間を過ごしたい。
こんな乙女な私の願いを誰が責められる。
例え私が死んでいたとしても。
生まれて初めて女の子が自分の部屋に来た。俺も性欲ある男ゆえに親の居ぬ間を見計らって女を自分の部屋に呼び、楽しくゲームでもした後ムフフ....なんて妄想は度々する。ただ生まれて初めて自分の部屋に来る女の子が死んでいるだなんてことは考えもしなかった。それに厳密にいえば俺が呼んだわけではなく勝手に付いてきたのだ。いや、憑いてきたのか。
「君は死んでも恋がしたくて幽霊になったと…??」
「そう!だからあなたに私の恋のお手伝いをして欲しいの!!」
下校中の俺にふわふわ浮きながら話しかけてきたときから彼女は恋をしたいと言っていた。彼女のビジュアルがホラー寄りだったならば俺は腰を抜かしてアワアワ言っていた。しかし幸い浮いていること以外は制服を着た普通の女の子だったからか、不思議なことにさほど怖いとは思わなかった。
「私ちゃんと恋をしないまま死んじゃったの。だから死んでも死にきれない。でもね、やっぱり私事実として死んじゃってるわけだし一人じゃどうしようもないの。だってね、気になった人に勇気出して話しかけても気付いてすらもらえないの。どんなに大声出したってどんなに念じたって。」
死んでまで恋をしたいと願った少女にしかわからないであろう話を切実にする彼女を見ると思うところもある。だが、こちらにも恋がしたいと幽霊に声をかけられ家にまで付いてこられた少年にしかわからない話がある。
「ちょっと待ってくれ..まだ俺はこの状況がよくわかってないしなんだかもう何がなんだか」
つまり彼女は死んだ。そして生前恋が出来なかったをことを悔やみ幽霊になった。しかし幽霊ではまともに人と話すら出来ない。ん..??ならば何故俺は....??
「俺はなんで君が見えて話ができる??」
さっきまで子犬のような目で俯いていた彼女は打って変わって目を輝かせた。
「そうなの!あなた私と波長みたいなのがぴったりなの、一目見てビビっと来るくらい!」
オバケが言うならそうなのだろう。
「じゃあ君は..波長の合う俺に恋を手伝って欲しいと」
「何回も言ったよっ」
彼女はフンッと鼻をふくらます。
波長が合うやらなんやらで俺達二人は会話が出来るようだが、彼女が幽霊であることに変わりはない。しかし俺がいたところでどうなる、彼女の悩みは解決しないのではないか。
「俺は君の恋愛相談にでも付き合えばいいのか??」
「まぁ..それもあるけど....」
前髪をいじりながら口篭った彼女に
「それもあるけど、何??」
彼女は覚悟を決めたように言う。
「あなたが欲しいの....」
彼女は頬を染めた。
こいつ何言ってんだ。俺に恋を手伝って欲しいんじゃなかったのか。俺が欲しいってなんだそれは。告白か。もう俺に恋しちゃってるってことか。そうだよな波長合うんだもんな。なんか急に恥ずかしくなってきた。あぁー相手オバケだけど、告白されるってこういう気分なのかー。あぁー、やっぱり嬉
「ち、違うの!」
どきまぎしている俺を見て察したのか、俺の思考を遮り自分の言葉を訂正した。
「欲しいのはあなたの身体なの!」
清純そうだと思っていた俺は間違ってたのか。でも彼女の望みを受け入れたら俺はどうなってしまうのか気になって仕方が無い。いやいや、初体験がオバケとかどうよ。そもそもそれ体験したことになるの。
「あの、初対面だしさ....」
どきまぎを加速させた未経験者俺はこう言うのが精一杯だった。
彼女は真っ赤になり
「そういう意味じゃない!誰が痴女オバケよ!!」
「言ってないけど..」
「とにかく、性的な意味じゃなくて霊的な意味で身体を貸してってこと!」
俺が幽体離脱をして彼女が俺の身体に入るということか。
なるほど、性に多感な時期とはいえ、すぐに性的なことしか考えられなくなった自分が恥ずかしい。
「俺の身体を使いたいってのはわかった。けど君が俺の中に入るとかそんなファンタジーなことできるのか?」
幽霊と会話している時点ですでにファンタジーな気もするが。
「そもそも出来たとしてだ、俺の身体で恋しようたってゲイの方しか相手にしてくれないだろうし、それじゃ意味が無いんじゃないか?」
彼女は彼女として恋がしたいのではないか。
俺の問に彼女はふふふと笑みを浮かべた。
「あなたに霊体になってもらって私がその身体を使うことは可能です。あなたの二つ目の質問も、問題はありません。」
彼女はニヤリと
「なぜなら私とあなたの波長はぴったりだから!」
何の説明にもなってないが。
「私聞いたことあるの。合う人との入れ替わりは一味違うって。」
彼女はベッドに座る俺に顔を近付けじっと見つめた。
「とりあえずモノは試しよ。目を閉じて、私と入れ替わると念じてみて。」
彼女の真剣な眼差しと勢いに俺は言われるがまま念じた。
心なしか身体が軽くなり半信半疑で目を開けるとそこには俺が着ていた制服を着てベッドに座る彼女がいた。そして彼女は地に足つけて立ち上がり飛び跳ねた。
「ほら!やったー!入れ替わり成功!!」
俺には無くて彼女にはあった胸の膨らみが俺の男子用制服に包まれ揺れている。俺はもしかして全裸のオバケになったのかと思ったがしっかりと自分の制服を着ていた。
「ちょっと待って..」
彼女はにこにこと
「何??」
「これって入れ替わりか..??俺の身体が性別の垣根を越えて君の姿形に変わってるように見えるんだけど」
「変わってるよ!大成功!!」
彼女はVサインを突き出した。
「言ったでしょ、波長が合うと一味違うって!!」
ファンタジーが過ぎないか....
俺の身体に乗り移った彼女はぺたぺたと胸や顔を触り感触を確かめる。
「ちょっと鏡借りるね」
机に置いてあった手鏡を覗きこむ。
「すごいね、顔も私になってる」
俺は俺で身体が軽くなるというかふわふわと浮き、なんだか透けている気もする。これはもう立派な幽霊だろう。確かに、彼女と入れ替わりで俺が幽霊になるというのはわからんでもない。だかしかし。
「これ、元に戻るんだろうな..??」
「入れ替わるときと同じことをすれば元に戻るはずだよ」
はず?
「俺は出会ったばかりの名も知らん幽霊に身体をくれてやるほど人生捨ててないんだ。ちゃんと返してくれよ。」
「大丈夫だよ。私まだ悪霊じゃないもん。」
そうだ。もうこうなってしまったのだ。彼女を信じるしかない。
「あとね、ハルだよ。私の名前。字はお天気の晴れって書くの。あなたは??」
「大槻宗一」
「良い名前だね」
自己紹介は入れ替わりなんてする前にすべきだった。
「大槻くん、あの..今更だけど、これからよろしく..ね」
もっと別にするべき話があっただろう。彼女がすでに死んでいるということ。彼女の手助けをするということ。これがどういうことなのかもっと考えるべきだっただろう。しかし遠慮がちな上目遣いの少女を見ると、
「あ、あぁ。」
俺は頷くことしか出来なかった。
「ありがとう」
晴はそう言い笑った。彼女の笑顔に小さな笑窪があることに気付いた。
「でね、あの、いきなりなんだけどね。」
晴は言いよどみながら立ち上がり、尋ねた。
「デート、行ってきてもいい??」
「はぁ?」
いきなりなんだこいつは。
「いや、デートの約束を取り付けてるってわけでもないし、そもそもまだ話したこともないっていうか出来なかったんだけどね」
晴はモジモジしながら続ける。
「それにまだ恋とか好きとかってことでもないんだけど、ちょっといいなぁって思う人がいるの。」
「でも私その人がどういう人なのかも全然知らないよ?そりゃあ私は幽霊だからその人をつけ回して調べるなんてことはできるよ。でもでもそれってなんだかルール違反な気もするし、何よりその人に失礼じゃない。」
「死んでおいて何言ってんだって思うだろうけど私は私として、出来るだけ普通の女の子で恋したいっていうか。あっ、でね、その人を初めて見かけたのが駅前のマックでね、たぶん大学生だと思うんだけど三人で楽しそうにお話してたの。そのうち一人の雰囲気が良さそうでね。ううん、良さそうじゃなくて良かったの。確かに見た目も良かったけど、やっぱり第一印象って大事でしょ。私は」
恋に恋する乙女の恋バナを止めるのは無粋な気がする。楽しげにころころと表情を変えながら喋る彼女を遮るのも忍びない。だがこのままでは彼女のマシンガンにやられてしまいそうだ。
「あー、その気になる人をデートに誘いに行きたいと。」
「まぁ、その、うん。」
晴は恥ずかしそうに手を頬に当て
「ごめんなさい、いっぱい喋っちゃって。人とお喋りするのが久しぶりでつい..」
「謝ることはないよ、こっちこそ遮っちゃったし。」
彼女は死んでいるんだ。人と会話するということが当たり前ではなくなっているのか。気が済むまで聞いてあげるべきだった。
「その、幽霊同士で交流とかはないのか。」
「幽霊ってそんなにたくさんいるわけじゃないし、見かけても干渉しないのが基本なの。」
「そっか。」
幽霊界隈にも色々あるようだ。
「とにかく、君はその人に会ってデートしたいんだな。そのマックに行けば会えるのか??」
「うん、今日とかこの時間帯ならいると思う!」
「..その人のこと調べたりはしないんじゃなかったか」
「これはいいの!それに知ってるのはこれくらいだもん。本当だよ!!」
それが本当かどうかは俺にとってこの際どうでもいいが。
「今から行くのか??」
「行くよ!」
彼女は胸を張った。
「せっかくのチャンスだもん。あなたみたいに手伝ってくれる人が今後見つかるとは思えないし。私頑張るよ!」
事実として身体はもう貸してしまっている。ここまで来て辞めろとは言わないし応援くらいはする。
「その服で行くのか??」
彼女は当然っちゃ当然だが入れ替わる前に俺が着ていた男子制服を着ている。うちの学校はこの時期男子もベストを着るため今の彼女の姿が大変におかしいということはないが、大変なことに気がついた。
「サイズ合ってないし、そのほら、下着とか。」
そう、俺がブラジャーを付けていなかった以上彼女は今間違いなくノーブラだ。パンツこそ俺のを身につけている状態ではあるが、もちろんそれは女物のパンツではない。つまり事実上ノーパンとも言える。彼女は今ノーパンノーブラだ。さっきまで俺のモノを包んでいたトランクス、その穢れた布を身につけているという点で考えるならばノーパンノーブラの下位、いや上位の状態にあるとも言える。
「ななな何考えてるのよっ!!」
紳士を振る舞い指摘したつもりだったが鼻の下でも伸びていたのだろう。性に多感な時期だ、多少は仕方がない。彼女は一気に茹で上がった。
「違うんだ!俺は君を気遣っただけで!」
「もうっ」
晴は唇を尖らせた。
「あぁ、君がノーブラだなんてことは」
「やっぱり考えてるじゃない嘘つきー!!」
ちくしょう!普段ならこんな口をすべらせたりなんかしないのに。やはり性欲が絡むと男はアホになるんだな。