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女神の寵愛を受けし少年  作者: ユウ
第一章 帰ってきた少年
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06 1日目の終わり②

 ギルドを出たリンはクレアに手を握られたまま大通りを歩いていく。来る時には目を向けてなかったので、何気なく周りを見てみると大勢の人が行き交っている。


 自分と同じように革鎧を着込んで剣を提げている明らかに冒険者といった男性も入れば、野菜の入った買い物カバンを腕に掛けて肉屋の前で今晩の夕食を何するか選んでいるおばさん、手に棒をもってチャンバラごっこをしながらかけていく自分より小さい子供達。

 また、武装をしているが統一された軽鉄鎧をして、同じ槍を持って一定コースを歩いている人たち。 あれは町の警備隊だろうか。

 共通しているのはどの人も明るい雰囲気をしているからこの街は随分と治安の良い街のようだ。


 

 また1人、前から木材を持って土木関係の仕事と思われる40代の無精髭を生やした大柄の男がやってきた。

 男はクレアと視線が合うと声をかけてきた。



 「よぉ! クレアちゃんじゃないか! 珍しいなこんな時間に歩いているなんて。

 ガハハハ、まさかサボりか。」


 「もう!ダンさんじゃ無いからそんなわけないじゃないですか!ちゃんと仕事をしてますよ。」


 

 でかい声と笑い方でかなり豪快な男のようだ。それにクレアがかなり気さくに会話している事から、気心のしれた相手のようだ。

 下から・・・・・ぼ~っと見上げているとダンと呼ばれた男が下を向いて目があった。「おぉっ!なんだこのちっこいのは?」と自分とクレアを交互に見やって、何を思ったのか、『・・・・・・にやぁ~。』 と唇の端を歪めた。



・・・・・・無精髭のおっさんが実に気色悪い笑みだ。



 「おいおいおいっ! まさかこのちっこいのはクレアちゃんの子か!? いや~、とうとうクレアちゃんも子供をつくる気になったか! で、誰の子だ。うん?うん?」



 「・・・・・なっ!? なに言ってるんですか。私の子なわけないじゃないですか!だいたい年齢がおかしいでしょう!」



 とおかしな事を言い出したおっさんにクレアが顔を真っ赤にして早口に弁明する。 しかし、おっさんの方は「ガハハハ! 照れんな!照れんな!」と全然聞いてなく一人で爆笑している。

 クレアは更に真っ赤に―ちがいます!、と説明しているが本気で嫌がっているようには見えないのは気のせいだろうか。

 おっさんもからかっているようない言い方から年齢が合っていない事にも分かったうえで言っているようだ。



 「ハハハ、悪かった。冗談で言っただけだ、そんな怒鳴るな。 坊主もからかう出汁にして悪かったな。」



 とリンの頭をグシャグシャにしようと毛深い手を伸ばしてきた。 クレアは「あっ! 待って!」 と慌てて止めようとしたが一歩遅かった。

 

 

 リンの目つきが一気に鋭くなり、ダンの伸ばした手首を左手で握り締めた。そして手の甲に僅かに浮き出ている血管が力を入れて隆起してハッキリと浮かびあがり、『メキィッ』と音がなる。

 ダンの手首にはリンの指が少しめり込んでおり、「うぁぁ。」とダンの顔に苦痛の表情が浮かぶ。 

 それだけでは終わらずクレアに握られていた右手を振りほどき、腰に指してあったナイフを抜き取り、そしてギルドの時の再現のようにダンの首目掛けてナイフの先を突き刺す。

 クレアは慌てて「ダメェ!!」と大きな声をあげた。



 ピタァっ、


 リンのナイフがクレアの声に反応してダンの首に刺す前で止まり、一泊してダンが苦痛で落とした木材が地面に落ちて音を立てた。

 


 シ~ン、とクレアの大声と木材の落下音であたりは驚いて静まり、周りの人々が足を止めて注視する。



 リンがクレアを見上げてきたのでクレアは「ダンの手とナイフを外してあげて。」と言われたので、リンは素直に手首と首のナイフを下げた。

 クレアは気持ちを落ち着けてリンの前でしゃがんでリンの目の高さに合わせて視線を合わして話しだした。



 「リン君、ギルドの時みたいに今回は何も危害を加えるところじゃ無かったわ。

・・・・・・どうしてこんな事をしたの?」



 と静かにリンに問いかけた。



 「・・・・・・母さんに言われた。金や自分の都合の良いように扱うのが人だから故意に近づいたり触ろうしたりする人は容赦するなって。」



 「・・・・・・そう。でも私は大丈夫だったよね? それはなんで?」



 「・・・・・・。」



 「すぐに分からないなら、すぐに答えなくても良いの。 確かに悪さをする人もいるから絶対ダメとは言えないわ。 でもすぐに殺そうとするのだけはやめて。」



 とクレアはとても切ない声でリンに話しかける。その声の響きにはリンに軽率な行動で後で後悔してしまうような事がないように真摯な思いが込められていた。



 「お姉ちゃんのお願い聞いてくれる?」



 「・・・・・・うん。わかった。」



 リンの瞳には何か迷うような揺らめきがあった。クレアはその事に気づいたが、リンが大切と思っていると思われるお母さんという人の言葉もあるのだろう。

 すぐに割り切るのは難しいし、クレアの言葉に反応してナイフを止める事も出来たのでこの言葉を理解はしていると思いこの話はこれで終わりにする。



 ・・・・・・その間、被害者となった無精髭の男ダンは手首を抑えてとても居心地の悪いといった顔で放置されていた。



 その後、クレアとリンに一緒に頭を下げられて「っおうよ! 気にすんな。ガハハ!」とどう見てもやせ我慢した顔で去っていって、見物客も散り散りになっていった。



 またもやひと騒動があったがその後は、クレアもリンの行動に注意して一緒に手を繋ぎ何事もなく宿へ着いた。―さっきの騒動を気にしたせいかお互いの気持ちが近づいたのか不明だが先ほどよりお互いの体の距離は確実に近くなっていた。



 

 ついた宿の掛札には【猫撫で亭】と書かれていて、なんか想像が用意そうな名前であった。



 中に入ると正面に受付用のカウンターがあり、左に階段、右に暖簾がかかった入口があり、暖簾の隙間から料理の匂いや複数の人の談笑する姿が見える事から食堂で左の階段の先が宿の部屋になっているのだろう。



 受付には誰もいなくクレアがカウンターの上にあった呼び鈴を鳴らすと右の暖簾の中から1人店員さんがやって来た。

 その姿をみてリンは年相応にキョトンとして店員さんの頭の上と尻尾に注目した。

 その頭の上にはフサフサの少し毛の短い三角形の猫耳、お尻にはふりふりと揺れる猫尻尾。 目はパッチリした細長い金色の瞳孔で顔の肌や作りは人と同じだが完全に猫の特徴をもった獣人であった。 白いブラウスにスカート、そしてエプロンドレスを来た猫族ウェイターだ。



 「いらっしゃいにゃ~。 お待たせしたにゃ~。って、クレアだにゃ!」


 なんと!喋り方までにゃんにゃんとは。



 「久しぶりねエリナ。 宿を1泊食事付きで1人分お願いできるかしら。お金は今晩だけ私が払うから。」



 と気さくに話しかけるクレアと猫族。クレアは随分交流関係が広いようだ。



 「分かったにゃ~。ところでその子は誰にゃ?」



 「えぇ、この子が宿に泊まるお客さんよ。新しく冒険者になったリン君。」



 「おぉ~!? こんなに小さいのにもう冒険者なのかにゃ~! 将来有望株なのにゃ~。うちはエリナ。宜しくにゃ~。」



 と元気に喋るエリナ。猫だけ合ってテンション高い娘である。黙って見つめているとクレアが、挨拶は?と来たのでついらしくもない返事をしてしまった。



 「・・・・・・リンです。・・・・・にゃんにゃん。」、猫手を挙げてピコピコ。



 「・・・・・・。」


 「・・・・・・。」



 「な、な、な、何にゃ~! この子!? ちょ~可愛いにゃ~。」



 とリンの子供らしい返事に爆発するエリナ。物凄い勢いで突進してきた。


 慌ててリンの前に出てエリナの進路を塞ぐクレア。エリナには悪いが先ほどの二の舞は御免である。



 「クレア!何するにゃ~!」



 「ちょっと、落ち着きなさいエリナ。邪魔して悪いけど、これはあなたの為なのよ。リンには無闇に触らないで。」



 「どういう事にゃ~?」


 

 そして、クレアはギルドの騒動と先ほどの無精髭おっさんのダンの事を詳しく喋り、リンが人とのコミュニケーションに危険がある事を話した。

 楽観的なエリナもその話には難しい顔をした。



 「む~。それは危ないにゃ~。 でもクレアは平気なんならうちにもチャンスはあるんじゃないかにゃ~?。



 「まぁ、その可能性はあるけど・・・・・・。」



とクレアは溺愛していたペットを取り上げられそうな歯切れの悪い返事をした。



 「物は試しにゃ~。 り~ん君~。」



 とじりじりとリンに近寄るエリナ。



 「・・・・・・っ!」



 エリナとリンの距離が手を伸ばせば届くといった距離に入って、リンの雰囲気がジワリと変わった。

 少し離れたクレアの肌にも空気を伝ってピリピリとしだして、エリナに至っては猫耳と尻尾の毛がピーンと逆立った。

 これ以上近づくと目つきも変わり迎撃されてもおかしくないと野生の勘が働いたエリナは諦めて離れた。

 エリナが離れた瞬間に張り詰めた空気も元にもどった。それを見て落ち込むエリナ。



 「ねっ。この子こういった事情だから宿に泊まっている時は注意してね。」



とどこか嬉しそうなクレアに恨めしそうにジト目を向けるエリナ。



「はい、はい、わかったにゃ~。それじゃ、先にご飯にしてゆっくり今日は寝るといいにゃ~。 クレアもこの子の初日は心配だからうちのの部屋に泊まるにゃ~。」



「それもそうね。分かったわ。それじゃあ行きましょう。リン君。」



「うん。」



と当たり前のように手を繋ぐ2人。



「・・・・・・2人とも中が良すぎにゃ・・・・・。」



少し離れて寂しそうに呟くエリナであった。



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