04 神々の洗礼②
クレアは古びた教会の扉を開け中に歩き出したので手を握っていたリンも一緒に中へ入っていく。
中へ入ると入口からの外の明かりでわずかに中を照らし、教会の身廊部分が照らされ、その両側になにか像のようなシルエットが片側ずつ5体ずつ並んでいる。
リンが周りを伺っているとクレアが手を離して入口の横の方に歩いていき、なにやら壁の方を弄っている。
ガコン、とクレアの手元で音が鳴り、その瞬間に教会の内部に上方から光が降り注ぎ内部全体を照らし出す。
光が降り注いだ場所を見ると先ほど外から見えたステンドグラス
から光が差し込んでおり、クレアが操作したのはそこの開閉だったようだ。
再度、視線を身廊に向けると先ほどの両側のシルエットは10体の銅像であった。
リンは銅像へと近寄り見てみると、ほとんどが欠けているところが多く、風化によって色も変色しており、全体の形から人型という事だけが分かった。
グルっと一つ一つの銅像を見ているとクレアが近づいてきた。
「リン君。さっき神々の恩恵の話をしたよね。
これは大昔の人達が神々の姿を模倣して作製したとされる銅像なの。
大昔の人達は今よりずっと神様達に感謝の念を持っていて、毎日神様たちに祈りをその銅像に捧げていたんじゃないかって言われているわ。
だから各地の神々の恩恵を受ける街には同じように神々の銅像を設けた教会が建てられているわね。
でも長い年月の間に風化やなにかしらの原因で欠けて今ではどんな神様を模倣したのかどの街でも今では分からないのよね。」
とクレアは説明した。
リンは説明を受けて頷きながら周りを見渡して歩いていき、クレアはリンの後ろから付いて小さな後ろ姿を眺める。
やがて奥の祭壇の方に視線を向けてリンは近づいた。
祭壇には一つのオーブが鎮座しており、さらにその奥に3体の精巧な像が並んでいた。 その3体のうち2対の像は身廊にあった銅像と異なり完全な原型を留めていた。
1体は巨大な槌を肩に担ぎフルアーマを着こんで怒りを表したかのような強面の50代の男性と、もう1体は巨大な槍を握りしめて柄を地面に打ち付けて持った上半身裸の筋骨隆々だがどこか温和な60代の男性で、像の土台にはそれぞれトールとオーディンと記されている。
「ああ、その2体だけは神々の中でちゃんと記録が残っていてね。槌をもっている方が【雷神トール】で、槍の方が【最高神オーディン】といって神々の中の最高クラスの神様って言われているわ。
この像自体が他の銅像と違っていて、全く風化や傷がつけられない完全な状態を維持していて、どの教会にも全く同じものが必ず置いてあるの。
その現象から雷神と最高神の加護が宿っているんじゃないかと言われているわ。」
と特異な神様の2体を説明してリンの方を見ると。
リンは完全な状態の2体の神像には見むきもせず、最後の1体の前で立ち止まっで注視していた。 その神像は異様な様をしていた。
その神像の上半身の部分は刃物と見られる物で綺麗に切断されていて、なんの像なのかすら判別ができない様であった。
「ああっ・・・・・・ちょっとその像はね。私も分からないの。
ほかの2神と並んでいるから同格の神と思われるんだけど、記録が一切なくて。ギルドも把握できていないわ。
噂ではその壊れた姿から大罪を犯した神で粛清された神なんて言われているけど真実は分からないわね。
像の説明はこんなところね。さて、リン君こっちに来て。」
クレアが呼ぶなか、ぽつりと「……さん。」とリンは小さい声で神像の表面をゆっくりなぞる。
リンの態度に少し違和感を感じたが洗礼の儀式の為もあるので、ずっとそうして置くわけにもいかず、オーブの置かれた祭壇へ誘う。
「リン君。このオーブに手を置いて目をつぶって。ゆっくり深呼吸して。」
クレアに言われたとおり、オーブに手を置いて目をつぶり、ゆっくり深呼吸をするリン。
「次に、目をつぶったまま脳裏に自分が想像しやすい、これが神だと思う姿を浮かべて、自分のなりたいと思う気持ちを込めて祈りなさい。」
リンは今までたった一人を除いて人と過ごした事がない。その為、神という物を想像した事がなく、また信じてもいない。
だから、そのたった一人を思い浮かべ自分の気持ちを載せていく。
そして脳裏で1つの光景と同じ光景が次々と浮かんでは消えていく。
そしてその直後オーブが恍惚と教会内に光が溢れた。
◆◆◆
《これは、さっきの像? それにあの人は……。》
―半分に切られた半分の像
―サラサラした金髪
―そして振り返る白い横顔
―手を広げた女性に抱きつき、胸の中でギュッと顔を埋めるて目を閉じる。
―暖かい・・・・・・。良い匂い。 ・・・・・・とても安心する。
◆◆◆
そこまでの映像が流れて、プツンと途切れる。
目を開けるとクレアがしゃがんでリンの目線に視線を合わせていた。
いっときお互い目を見つめ合っていたらクレアは『ニコっ』っと微笑んで
「おめでとう。これで冒険者だね。リン君。」
と言ってきて、手に何か感触があるので、握っていた手を開いてみると1枚の少し分厚いカードが握られていた。
「それがギルドカードで冒険者の身分証明と同時に自分のステータスが確認できるようになるわ。 試しにステータスと言ってみて。」
ステータスと言うと半透明の画面がカードから浮かびあがった。
◎◎◎
名前:リン(10才)
ギルドランク:6級冒険者
レベル:10
総合戦闘力:Dランク
格闘能力:Cランク
射撃能力:Fランク
回避能力:Cランク
隠密能力:Cランク
殺人能力:Cランク
コミュニケーション能力:Fランク
女神:フレイア
加護:殺人罪の隠蔽
殺人戦闘能力の成長促進
◎◎◎
「ステータスの確認はできた見たいね。その状態は本人しか視覚できないし、街の出入りの身分証明は名前と犯罪者の有り無しの確認だけ。
あとギルドの受付で確認する時はレベルと総合戦闘力までしか見れないから安心してね。
そしてランクはその項目ごとの強さで、最低がFランク、最高がSSランクになるわ。
下手にステータスを見せると罠や都合のいい様に使われ、切り札も感づかれる場合もあるから詳細な内容は信頼できる人だけにしてね。」
とリンに微笑んで説明するクレアだが、まさかたった10才のリンが明らかに殺人推奨の加護とは夢にも思わないだろう。
というかリンがステータス開示するときには相手がイカレタやつだろう。
リンもクレアには余計な事は言わず「うん。わかった。」と相槌するだけにする。
「それじゃあ、洗礼も終わったしギルドに戻ろうか。」
とクレアはリンに手を差し伸べる。
リンもごく自然に手をだして、クレアの手を握って教会の外へ歩き出す。
教会の扉を開けて、出る瞬間に一度中の切られた神像をじっと見つめたあと、そっと扉を閉めた。
ぱたんつ。
……足音が遠ざかり、教会に静けさと日の光の全く入らない深淵が空間をヒンヤリと包みこむ。
リン達が出て行ってわずか1分ほどしてからだろうか、祭壇に並ぶ神像の1体、それもリンが注視していた像が陽炎のように紫色の靄が吹き上げていた。