03 神々の洗礼①
クレアに連れられたリンはギルドの奥に通され、ギルドの裏手へと出た。
そこにはレンガ造りの床に何本の古風を感じさせる柱で支えられた屋根付きの回廊が200M程続いており、その先には一つの大きな古い教会らしき建物が立っていた。
リンはクレアに手を握られ歩きながら床や周りの風景を観察する。
その回廊の床のレンガはところどころヒビわれて、何人もの人が通ったと思われる凹みと足跡の痕が黒く滲んでおり、柱の方は木の幹をそのまま使用してその上から樹脂で加工して補強しているが所々風化している様を見るに大分昔に建造された物のようだ。
回廊の外を見てみると回廊から回廊の先の教会のような建物に伸びるようにリンの脛あたりまで伸びた草花が生い茂り、さらにその外側に回廊と教会を取り囲むように透き通るような池が形成されているのが見える。
そして空からの陽光で草花の色彩は一層鮮やかに彩り、池は水面の反射でキラキラと輝き、さらにそよ風で草花の鮮やかさと池の輝きは揺れ、まるで万華鏡のようだった。
息を吸い込むと埃も淀みも一切ない澄んだ空気をしている事がはっきりしており、息を吸う度に体の中の淀みが流れていくような清純な感覚を覚える。
しかし、これだけの豊かな草花と池があるのに虫や小動物といった気配は見当たらず、近くに大通りの商店や人々の活気のある声が聞こえてこないとおかしいはずなのに、ここでは風がそよいで草花を揺らす音とリン達の足跡以外の音が一切なかった。
まるでここの場所だけ隔絶された空間で、清純な空気、陽光にさらされた草花、池、それらを囲む教会らしき建物はどこか神秘的な様を表していた。
その神秘的な風景をキョロキョロと見渡しているリンの様子を見てクレアはとても微笑ましくて、握っていた手をキュっと暖かく包み込むように少し強く握る。
握られていた手が少し強くなったのに気づいたのか景色を見ていたリンが見上げてきて、目で「・・・・・・何?」と訴えてきた。
「ん~ん、何でもないよ。」
とクレアはニッコリ微笑み、顔を前へ向けて教会らしき建物へリンを先導していく。
◆◆◆
クレアはリンが神秘的な風景に珍しくてキョロキョロしていたと思っていたのだが、その時のリンは別の意味で周りを見渡していた。
⦅・・・・・・お母さんと一緒にいた場所に似てる。⦆
リンの目にはキラキラ光る池の前の色とりどりの草花の中で腰まで伸びた美しい金髪を風でサラサラとなびかせている見慣れた1人の女性の後ろ姿を重ねていた。
そして金髪をサラサラなびかせていた女性はこちらにゆっくり振り向いて、真っ白で綺麗な手を差し出してきて微笑み・・・・・・
⦅・・・・・・りん。・・・・・・頑張ったわね。⦆
―その光景を、ぼ~、と幻視していると不意に握られていた手が強くなったのを感じて現実へと意識が戻される。
何事かと思い顔を見上げるとリンを見下ろしていたクレアとパッチリ目が合う。
「何?」と思い見ているとクレアは「何でもない。」と言いニッコリして前を見て歩き出す。
リンはニッコリしたクレアの顔と先ほどより強く握られているが痛くはなく、とても暖かい手を交互に見て不思議な感覚を覚えていた。
⦅・・・・・なんでこんなにホワホワした暖かい感じになるんだろう?⦆
そんな感覚に首を傾げる思いで歩いていると回廊の先にあった教会らしき古びた建物の前へと辿り着いた。