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女神の寵愛を受けし少年  作者: ユウ
第一章 帰ってきた少年
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01 戻ってきた少年①

―かつて水色の少女ティナが両親を失った街【ルブルの街】―


 あれから8年という時は街に大きな変化をもたらす時間でもなく変わり映えのない様相を呈しており、大通りは相変わらず多くの人で賑わい、大通りを抜けた先の冒険者ギルドの前も冒険者が出入りして活気を出している。



 そんな中、ルブルの街の入口から140cmほどの小柄な10歳程の金髪碧眼の少年が歩いてきた。

 


 その少年は付き添いらしき人も見当たらず子供にしてはやけに堂々として大通りを歩いてくる中、その少年を近くの人が見るたびにやけにジロジロと視線を向けてくる。



 その視線の理由は少年の姿にあった。



 少年の姿は頑丈なブーツに動きやすい濃い藍色のロングパンツ、上は真っ黒のシャツにその上から長袖の紅いジャケットを着ており、10歳の子供にしてはやけに大人びた服装をしていた。

 さらに人々が視線を集中しているのは少年の背中にあった。



 少年の背中には少年の背丈を超える全長150cmに刀身の幅が彼の肩幅ほどもある大剣を斜めに背負っており、少年の後ろ腰のベルトには短剣が一振り差していた事だ。

  


 大剣を背負っているのに少年の歩く姿は全くブレがなく明らかにその格好が馴染んでいる事に、10歳の少年の普通の姿ではなく通り過ぎるたびに人々は注目していた。



 その注目されている本人はというと、周りの人々など目に映っていないかのうように前方だけを見て歩いていき、そして大通りを抜けた周りの建物より一回り大きな冒険者ギルドの前で立ち止まって、ギルドの建物を見上げた。




◆◆◆


―冒険者ギルド内―



 ギルド内はいつもの如く、冒険者たちが依頼の受注や仲間と雑談などをしており、ギルドのカウンターの方で受付嬢達が依頼の対応と素材の買取りなど忙しなく働いており、その中に8年前にもいた現在は25歳になって大人の色気もでて美人となった受付嬢のクレアの姿もあった。



 「いつもご利用有難うございます。無事に帰還して来られるのをお待ちしております。」



 とクレアは依頼へ出発する冒険者に馴染みとなっている声をかけ、丁度正午の時間となり冒険者も昼食を取りに行ったりして、受付の方も仕事の方が一段落するところだった。



 クレアは受付の仕事の片づけを行いながら思考に耽る。



「あれから8年、か。 ティナ今度は往復で3週間かかる街への商人の護衛だったわよね。 

 たぶんリン君の事でまた街を調べてから帰ってくると思うけど。8年経ってまだ一度も手掛かりが無いなんて、・・・・・・もうダメかもしれないわね。」



と少し顔を俯かせる。 



 そんな時、ギィっとギルド入口の扉が開く音がして顔を上げて視線を向ける。



 その視線の先には金髪碧眼の小柄な少年が立っており、僅かに周囲に視線を向けると正面のカウンターの方を見て、コツコツとカウンターへ歩き出す。



 周りにまだ残っていた冒険者やギルドの職員達が先ほどの街中の人々と同じように10歳にしてはおかしな少年の姿に注目しており、先ほどまで賑やかだった話声も止み、静かに少年に視線を向けていた。



 自分もその少年に注目して、少年の格好におかしいと思い視線を向けていたのだが、少年の顔の方に視線を向けると



「あれっ?」



となぜか少年の顔をみてどこか懐かしいと思ってしまった。

 


 その懐かしい理由を探して少年の顔に集中していると少年はカウンターのクレアの前まで来ており、クレアの顔を無表情に黙って見上げていた。



 クレアは、はっと職務を思い出し、受付としての対応を始めた。



「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。

 僕は、今日は仕事の依頼にきたのかな?」



 とまだ10歳の少年なので仕事の依頼のお使いと思い口調を和らげて声を掛けた。すると少年は



「・・・・・・・依頼違う。・・・・・・・冒険者の登録。」



と無表情に単語のみで要件を言ってきた。



「え~っと。・・・・・・それって僕が冒険者になるってことかな。」



 と予想していなかった回答が少年からきたので、クレアは戸惑って再び少年に話しかける。



 しかし、少年はそれには回答せず、黙ってただ無表情にクレアに視線を向け、クレアを見る視線には「早く登録しろ。」と催促していた。



 これにはクレアも困ってしまい、10歳の少年にはまだ冒険者は早いと再び少年へと伝えてみる。



「あのね、僕、冒険者になるには実力が認められないと入れないのよ。ちょっと僕の年齢だとまだ早いかな。」



 と子供をあやすように少年に言うと少年は、



「・・・・・・実力を示さないと入れない。」



 と一言呟き、クレアはそれを聞いて理解して諦めてくれたと思い。



「そう、実力がね。」



 と少年に微笑んだ。



 その遣り取りを聞いていた冒険者の一人がじれったくなり、少年につっかかった。



「おい、ここはおままごとでも、子供が来ていい場所でもねえんだ。

 さっさと家にかえんな!」



 と乱暴に少年の肩を掴み、その光景を見たクレアが冒険者の男に声を荒げる。



「ちょっと!まだ10歳ぐらいの子供よ!乱暴にしないで!」



とその男に厳しい視線を向ける。



 だがその時、冒険者の男の方に皆視線を向けていた為に気付かなかった。 少年の目が肩を掴まれた瞬間に目つきが鋭くなり、殺気が籠ったのを。



 そして次の瞬間にそれは起こった。



 少年は突然肩を掴んでいた冒険者の男に向き直り、床を蹴って高く飛び上がって男の背後に廻ると同時に肩を掴んでいた腕を掴み捻り上げた。



 そして男が痛みによる声をあげる前に相手の足を勢いよく払い男は床に叩きつけられる。



 さらに少年はその男の背中に右手で腕を捻り上げたまま膝で相手を床に押し付け動けないようにし、左手は後ろ腰のベルトに付けられた短剣を引き抜いて、相手の頭上へ高く振り上げ、相手の首めがけ短剣の切っ先を一気に振り下ろす。



 クレアはその光景を見て悲鳴をあげそうになり、男の首に短剣が突き刺さる瞬間。



 「やめんか!!」



 という大音量がフロアに響き渡った。

 


 その声を聴いた少年は冒険者の首の皮一枚のところで短剣を止めて目から殺気を胡散させ、短剣を腰に戻し男から離れて大音量の声をあげた者へ視線を向ける。



 そこには大きな体格をした右目に傷跡のあるいかつい顔をしたここのギルドマスターであるグランドが腕を組んで立っていた。



 グランドはフロアを見渡して初めに受付のクレアと床に這いつくばっている冒険者の男をみて、最後に10歳程の少年を目を細めて見つめた後、クレアに状況の説明を求めた。



 クレアは突然の事態に慌てふためいたがギルドマスターから説明を求められ少し落ち着いて、状況の説明を行った。



 その間、少年はグランドをその碧眼で見つめ「強い。」と思い、さらに「今のままでは倒せないな。」と無表情の中で考えていた。



 状況の説明を受けたグランドは少年に向き直り、



「なぜ、冒険者を床に押し付け短剣で突き刺そうとした。」



と聞いてきた。少年は



「肩を掴まれ、傷害を受けそうになったからヤラれる前にヤッた。 結果的には殺してない。」



と悪気のかけらもなく答え、さらに



「冒険者になるのに実力を示せとも言われた。」



とクレアを指さして言った。



 それを聞いてグランドはジロっと冒険者とクレアに視線を向け、冒険者の男は額から、ツーっと汗が滴り、クレアは



「そんな睨まれても、そんな意味で言ったんじゃありませんよ~。」



と小さく声をあげた。



 グランドはため息をつき、フロア全体に聞こえるように



「今後、ギルド内でのこのような騒ぎを起こし傷害でも発生した場合は処罰をくだす。 今回は傷害を受けた者はいなかったから良いがお前も行動は慎め。」



 と最後に少年に向けて告げる。



「それとそこの坊主は冒険者になりたいようだが、実力については今しがた下級とはいえ冒険者をねじ伏せて、実力は十分だと俺が認める。

 クレアは坊主の冒険者の登録と坊主の専属の受付の担当になれ。

話は以上だ。」



 と言ってグランドはギルドマスターの部屋へと姿を消し、一旦フロアに静寂が戻った。



 少年にねじ伏せられた冒険者の男はあと少しで死ぬところだった事を思い出し、青い顔をして一目散に少年の傍から離れていった。



 カウンターの傍には受付のクレアと少年が取り残され、少年は何事も無かったかのように無表情にクレアを見上げた。



 クレアは少年に視線を向けて、10歳のまだ可愛いはずの年頃の少年がこんな問題児とは思わず、これから先の事を考えて大きなため息をつくのだった。


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