表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の寵愛を受けし少年  作者: ユウ
第一章 帰ってきた少年
1/30

プロローグ①

 魔法と剣そして魔獣が徘徊する異世界。


 世界の構成は一つの広大な大陸のみで人類は各地で魔獣の脅威から逃れる為に外壁に囲まれたいくつかの街で繁栄をしていた。



 過去の歴史では領地を巡り人間同士でいくもの戦争が行われていたが戦争による戦死者が年々増加し、魔獣から身を守る為に戦える者が少なくなり魔獣の脅威による死者の方が上回った為に、人間同士の争いをする余裕がなくなった。



 現在の人口は依然より増えつつあるが過去の教訓を元に人間同士が争っても人類の衰退の結果にしかならないと、戦争には至っておらず人々は今までと同じように外壁に囲まれた街の中で生活をしている。



 外壁に守られ安全とはいえ広大な大陸の為、北と南では気候や環境は異なり水、食料は勿論、物作りに必要となる鉱石等の資源は土地によって異なる為、各地の街との交流は必須でありその為の交易の為に外壁の外へと出る。

 そとは魔獣が徘徊し危険はつきまとうので護衛はいても魔獣に襲われ死者はたまに出る。



 それに加え人類すべてが善人な人がいるわけもなく、職を失い路頭に迷い食い扶持の為に追いはぎをする者、また権力を笠に人を虐げる者は存在する。そして外壁の外でも商人を襲う山賊なども存在し、完全に争いが無い訳ではない。

 だが、何千人と死者を出す戦争に比べればたまに人が1人や2人死ぬ今の世界は概ね平穏の世界とも言えなくはないのだろう。



 そんな、世界を覆う大空よりさらに向こう、どんな生物でも見えない距離より見下ろす視線がある。


    

◆◆◆


 そこには、透きとおるような湖とナイアガラのような盛大な滝が湖へ流れ、その周囲には草原と色とりどりの花々による美しい庭園が広がっていた。 初めての人がこの場所を訪れたならば、おとぎ話にでてきそうな楽園と表するかもしれない



 その花々に囲まれた庭園に1人の女性が佇んでいる。



「・・・・・・なんて。・・・・・・なんてつまらない世界なの! 」



 美しい庭園の中で、まるでゴミ虫を見るような視線で見下ろす人物が憎しみを篭めたセリフを吐き捨てた。



 その人物は先ほどのセリフがまるで不釣合いなほど万人が必ず見惚れる程の絶世の美女であった。 



 女性にしては高い170cmの高身長に、やや細見だが女性特有の美しい胸と腰のくびれ、足までと見事な曲線を描いた肢体を純白のワンピースが包み、顔は西洋風の丹精な顔つきに日焼けの無い真っ白な肌、切れ長の目にエメラルドのようね碧眼が輝き、腰まで伸びた艶のある金髪がわずかな風でさらさらとそよいでいた。



「・・・・・・許せない。・・・・・・許せない。こんな怠けて堕落した人間共。なんて弱くて醜いの! 人は戦う事が一番美しいというのに!

 他者を傷付けることで自分より弱いと劣等感を払拭し、虐げている自分になんとも言えない感触で興奮を覚える。 そして、他者は殺すのに自分が死ぬことには一番の恐怖を抱く身勝手さ。

 そして死にたくないからと強くなろうとする姿と死にもの狂いで戦う光景の美しさ!」



 美女のセリフに呼応して美しい肢体からは禍々しいオーラのような物がゆらゆらと立ち昇り、同時にワンピースの裾と腰まで伸びた金髪がバサバサとはためく。

 さらに彼女の周囲を覆っていた花々はカサカサに生気が吸われていくように萎れていく。



「ふふっ、どうしてくれようかしら、この人間共。

  いっそ一度滅亡寸前まで追い詰めた方が目が覚めるのでしょうけど、直接私自身で手を貸すことができるのは庇護の対象になる10才の子供までだし・・・・・・。

 一番良いのは争いの悪は少なからず存在するのだから、悪を妨害できる実力をもつ善人がいなければ自ずとまた人間の争いは生まれるはずなのよね。

 う~ん。・・・・・・でも、それを排除するほどの実力のある悪が今の時代いないのが問題よね。」



と、顎に手をよりぶつくさとつぶやく。

 何気に下界を見下ろしていると、ある風景が彼女の目に留まった。



◆◆◆


―大陸のある見通しの良い平原にてそれは起こっていた。



「おらっ! 殺せ! 殺せ!」



 野太い声で叫んでいるのは、ボサボサの清潔感の無い髪と髭を伸ばし放だいにし、ごつい顔にいやらしい笑みを貼り付け、清潔感もないみすぼらしい皮鎧の格好に手には刃がところどころ欠けた長剣をひっさげた、いかにも山賊といった男であった。



 その男の視線の先には荷台のついた馬車をとり囲むように同じような格好をした10人の男達と、その男たちに囲まれて商人と思しき格好をした30代の男女とその女性に抱きかかえられた2歳程の幼い子供がおり、子連れの商人夫妻と見られる。

 その家族を守るように前にでている2人の男性は長剣を構え軽量の金属製のライトアーマで武装しており、その姿を見るに商人夫婦の護衛であろう。



 山賊の男立ちは今にも襲い掛かるように前傾姿勢で殺気だちしており明らかに11人の山賊が商人に襲い掛かる状況である。



 商人の護衛の2人は長剣を正眼に構え、視線はせわしなく周囲の山賊たちを伺い、顔は慌てることはなく油断なく身構えている。

 あきらかに場慣れした雰囲気をもつ護衛の2人は素人ではないだろうが11人もの武装した山賊を前に人数の差は絶望的とみており、表情には出ていないが額から焦りを表す汗が出ている。



 商人夫妻もその絶望的な状況が分かっているのか、幼い子供を守るように抱き抱え2人で子供を山賊に見えないよう体で隠して悲壮の表情をしている。



 しずかな風が吹き抜ける中の草原でその殺伐とした空間に影響されたかのようにそこを中心に草原の空に暗い雲が覆っていく。



 雲に太陽が遮られていき、次第に暗くなっていく草原。草原をそよいでいた風はだんだんと強くなりザワザワと周囲に音を響かせていく。

 


 護衛の内の片方の額から汗が一滴顎まで伝い、ごくりと喉の音がなる。顎まで伝った雫が重力により、顎から離れ地面へと落下し、地面にあった石へ【・・・・・・ピチャン。】 とちいさな音を起てた。



―その瞬間、戦端が開かれた。―



 一斉に襲い掛かる山賊。その山賊に商人夫妻から遠ざける為に飛び掛かる護衛2人。 護衛は近づく前に人数を減らす為、後ろ腰に装着していた投げナイフを4本片手の5指の間に挟み、2人同時に8本のナイフを2人に飛ばす。



 いきなりの見えていなかった短剣が1人に4本同時に迫り2人は慌てて手に持った剣で弾くが、捌けたのは2本までで残り2本ずつが2人の顔に殺到し喉と目玉に突き刺さり、山賊2人は糸の切れた人形のように仰向けに倒れ動かなくなる。



 さらに護衛は1人の山賊に突っ込み剣を振り下ろすが山賊も対抗して剣を下から振り上げ剣をかち合わせる。ぎちぎちと剣が合わさり鍔迫り合いになる。それを見た他の山賊の1人が隙有りと護衛の後ろから切りかかる。

 それを視界の端でとらえた護衛は剣を合わせていた山賊の腹を足で蹴り飛ばし、即座に体を反転して背後から迫った山賊と再び剣を合わせまた鍔迫り合いの状態に陥る。



 それを見ていた最初に叫んでいた山賊の頭らしき人物は2対1でも埒が明かないと思い指示を飛ばす。



「おまえら! 4人同時で切りかかれ!」



 それを聞いた山賊たちは指示どおり護衛2人に4人ずつ四方から同時に切りかかる。 これにはさすがに護衛も対応ができず自らに迫る剣先を見つめ苦渋の表情をつくる。



 そして、「「ブシュ、ブシュ」」と肉を貫く鈍い音が草原に響き割る。



 護衛2人は四方から体中を剣で突き刺され、刺された体の先から4本の剣先が突き出ており、護衛の口からはごぼっと血があふれ出し目の瞳孔は開いて瞳からは色は失われていき、うつろな瞳となった。



 そして一斉に剣が抜かれた瞬間に刺された場所から血が吹き出し、あたり一面の草花を紅く染めていき、その場所に2人の体が横たわる。



 それを一部始終見ていた商人夫妻は分かっていた事とはいえ、その状況に血の気の失せた青い顔をし、後ろへ後ずさる。



 山賊の頭らしき男は「最後の絞めだ」と良い、そのセリフを聞いた山賊8名が一斉に商人夫妻へ方向を変える。



 商人夫妻はその狂気の行動にさらに恐怖が増し、逃げようとするが即座に4名の山賊に逃げ道へ回り込まれ囲まれる。



 商人夫妻はせめて幼い我が子だけでも守ろうと山賊に見えないよう2人で抱き込み地面に伏せる。



山賊の頭は



「お前ら、死体の匂いで魔獣が近寄る前にそいつら殺してずらかるぞ。」



と良い部下へ指示をだす。



 そして山賊たちは地面に伏せて顔を上げない商人夫妻を取り囲み、剣を振り上げ、一斉に振り下ろす。



「「ザシュ。ザシュ」」



 と四方八方から切りつけられ舞う血飛沫とあたりを紅く染めていく草花。商人夫妻からは呼吸の音が途切れ、顔は生気を失ったようにうなだれている。



 そして障害の無くなった山賊たちは幼い子供の事には気付かず、死体を放置し商人夫妻の馬車の荷台を物色し始め根こそぎ奪い去っていく。



 山賊がいなくなり、静寂があたりを包む草原には夫妻、護衛、山賊の6つの死体と血の匂いだけが漂い、草原を覆っていた暗雲からポツポツと雨が降りだしていく。



 雨はしだいに強くなり、あたりは暗い草原にサァァァっという雨音だけが響いていく。




半刻ほどした頃だろうか。



 雨が降り注ぐ商人夫妻の遺体のそばにどこから現れたのか、純白のワンピース姿の金髪碧眼の女性が立っていた。女性の回りにはそこだけぽっかりと空いたように雨が降り注がず不思議な空間を形成していた。



 金髪の女性は夫妻の方へしゃがみ込み、真っ白な美しい手でそっと夫妻の体を引き離す。



 そこには夫妻の子供で2歳程の幼い男の子が静かに目をつぶっており、小さな呼吸をしている事から生きている事が分かる。その愛らしい寝姿を見て金髪の女性は、



「ふふふっ♪」



 と慈愛のこもった微笑みで見つめ優しく男の子の頬をなでて、愛おしそうに胸に抱き上げる。



「可愛い、可愛い坊や。私が母親になってあげるから何も心配しなくていいわ。 あとあなた達にはこの子を守ってくれたせめてもの御礼をあげるわね。」



 と母性に溢れた言葉を男の子につぶやいたあと、女性は商人夫妻に手をかざすと手のひらから淡い緑色の光を発光して、夫妻の体を包み込む。



 そして手の光がやんだあと、金髪の女性と抱き抱えられた幼い男の子の姿は次第に薄くなっていき、幻であったかのうように草原から姿を消した。 女性がいた後には先ほどと変わらず雨が降り注ぎ6つの遺体だけが残されていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ