大丈夫だ、俺が守る。
『大丈夫だ、俺が守る。』
そう言われたのは10年前の話。
あの日旅した仲間は皆居なくなってしまった。
1人は死に、1人は囚われ、1人は行方不明。
助けなきゃ、探さなきゃと思っても幼い俺の貧弱な力じゃ不可能だった。
不可能"だった"のだ。
俺はまた旅を始める、かつて四人で歩んだ懐かしい旅路を今度は1人で歩んだ。
死にかけたことなんて何回もあったが、何とか切り抜けてみせた。
そして目的地へと重い足を必死に動かして歩んでいく。
俺一人で助けるためには捨てなければならないものがある、捨てても良い物か悩む物だ。
だが捨てた。
捨てて良かったのだ、これで助けられるなら。
俺はこの日、人間ではなくなった。
二度目の旅から数日後、やっと辿り着いた。あの日別れた、化け物に囚われている俺の父親代わりは、別れた時から見た目も何も変わっていない。
不器用を含んだ俺様な態度も、筋肉質な肉体も、別れた日から時間が止まったかのように、何もかも。
「おい!何をする気だ!!」
――助けに来た
「俺なんかに構うな!!全部忘れて帰りやがれ!」
――アンタには会わなきゃいけない奴がいるだろ、俺が身代わりになるから。
「ふざけんじゃねぇ!!」
――悪いな、俺は、もう…
そのまま殴りかかった。人間とはかけ離れ、無駄に強化された力はアンタを気絶させるには十分だったようだ。
気絶し、使い物にならないと判断されたアンタは化け物の鎖から解き放たれ、代わりに俺は鎖に縛られる。
治癒をしてからアンタをこの場から逃す。
一人はもう、慣れた。
餓鬼の頃から一人だから。
あれから一週間だろうか、アンタとあの日行方不明になってた兄貴がここに来たのは。
両手を縛られ、まるで磔の様にぶらんとしているが、僅かに足は床についてる。俺は無気力に下を向いていた。
見なくても、二人がどんな表情をしているかなんて手に取るように分かるから。
「早く殺せよ。」
何も言わず呼吸だけひたすら行っている二人にあげた俺の久々に発する『オト』は自分でも思うほど残酷な物だった。
「これで全部終わるんだ、この世界を壊し続ける厄災は俺が死ぬのと同時に終わる。
殺れよ、早く。」
俺が今いる世界には厄災と呼ばれる強大な魔物が存在する。その魔物は、禁忌の術を使用し、ありとあらゆる面で一般人とかけ離れた存在、簡単に言えば『人外』を一人を縛り、まるで使い捨ての乾電池の様に利用して生きる。
電池(生命力)が切れたら適当にそこら辺でシアワセに暮らしている人外より燃費の悪い(死にやすい)一般人を拐い厄災を消す為に態々旅をした次の人外が現れるのを世界を壊しながら待つ。
アンタは巻き込まれたんだよ。
俺は、この世界で延々と続いてきたこのクズ見たいな流れを壊した。
一般人と人外を散々使い捨てて来たこの化け物の本体を殺したってこと。
つまり、今この強大な厄災は俺自身だ、俺が馬鹿デカイ魔物その物。
俺が死ねばこの厄災は空に溶けて、消滅し、世界に平和が訪れる。
ずぷり、と、兄貴の剣が俺の左胸であろう場所を貫いた。口から血だった液体を吐き出す。
うつむく兄貴の顔を見るために重い頭を上げると、重苦しく垂れ下がる前髪の隙間から僅かに、透明で薄汚れた空間には勿体無い程美しい液体が、彼の左目から一粒流れているのが見えた。
痛みを通り越して感覚が消えていく、腕の鎖がほどけていく、この厄災が、終わっていく。
床に膝をついた時、今までの事を思い出した。走馬灯と言う奴だろう。
幸せな平穏、両親の死、アンタら三人との出会い、旅の最中、決戦、敗北、アンタの場所を知る、ヒトリ旅、人を捨てる、アンタを助ける、縛られる、壊す、壊す、壊ス、こワす、こワス、コワス、
沢山の思い出と感情が眼から液体となってこぼれ落ちた、兄貴とは違ってとても濁った液体が。
ふと、昔母さんに言われた言葉が頭に浮かぶ。
『いい?■■■。人は、忘れられた時に死ぬのよ、だからそう簡単に死ぬとか言わないの。母さんも、おばあちゃんにそう言われてきたの。』
俺はいつ死ぬんだろうか、それは誰にも分からない。
一先ずは眠ろう。
世界の平和を願って。