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『蝉』

我輩は蝉である。名乗るほどの虫ではない。

今この日も変わらず暑く蒸しており、我が同族の必死の声が響き渡っている。


我輩も、地表へと這い出、幼き姿を脱ぎ捨て成体になってから既に七日。

この身も老い、もはや鳴くことすらままならぬ。


「せみしゃん、なにしてぅの?」


ふと、声がした。

見上げれば人間の、およそ産まれて少しというほどの雄が我輩を見下ろしていた。


「……なんで、せみしゃんはみんみんいわないの?」


我輩はもう疲れたのだよ。後は徐々に朽ちるのみだ。


「せみしゃん、げんきないぉ」


何を思ったか、人間は我輩を手に取る。壊れぬように優しく掴み取る。


「げんきないのぁ、ねんねするといいよ」


まるで人間が子をあやすときのように、この赤子は我輩を撫で始めた。

生き物の持つ温かみが伝わる。


「いーこ、いーこ」


不思議と嫌ではなかった。

我輩は、少しばかりのお返しとして、じじっと僅かに鳴いた。

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