『アイス』
「暑っちぃ……」
「言うなよ、余計暑くなる」
首元にじりじりと、もはや痛みの域に達した日光が射す。足元の砂浜からの照り返しにもいじめられ、止まらない汗が顎を伝ってぽたぽた落ちる。
行く先には陽炎が立ち上り、歩む為のやる気を根こそぎにする。
「……なぁんで歩かなきゃいけないんだ」
「お前が財布落としたせいだ。おかげで家まで徒歩だよ」
「そうだった……」
財布さえ落とさなければこの海水浴からの帰り道、電車で我が家まで帰れたはずだ。
夏だからって馬鹿みたいにクーラーを働かせた、キンキンに冷えた電車で。
「お、駄菓子屋! アイス食おうぜ!」
「たまたまポケットに入ってたなけなしの150円使い切る気かよ」
「いいじゃねぇか……おーい、おばちゃーん! パピコちょーだーい!」
奴は駄菓子屋のおばちゃんに金を渡し、チョココーヒー味のパピコを買った。
茶色く焦げた顔でにかっと笑うと、受け取ったパピコを半分に割った。
「ほら、お前の分」
「…………はぁ、まったくお前は」
苦笑しながら、パピコを思いっきり吸い込む。こめかみがつんと痛んだ。
後ろの森からアブラゼミ達の合唱が聞こえる。目の前の海はきらきらと輝き、風が潮の匂いを運んでくる。
身体を撫でる熱波は不快だけれど、
こういう夏の雰囲気も、嫌いじゃない。