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【閑話 入浴時間―service―】

注1・本編とはあまり関係なく、イリムの衣装について解説する小話です。

注2・文章よりもイラストがメインとなっております。

注3・本編のシリアスな空気が粉砕される恐れがあります。

注4・「子供の裸に興味はない」という紳士な方はご遠慮下さい。


             ◇


「ったく、これだから天気予報は信用ならねえ」

 捜査の途中で急な雨に襲われ、濡れネズミとなってホテルに戻ったジェイ達は、フロントで貰ったタオルで頭を拭きながら、ようやく部屋に戻って一息吐いていた。

「ジェイ、服が張り付いて気持ち悪いのだが、脱いでもいいか?」

「駄目だ、と言いたいところだがな……」

 濡れた修道服を指差すイリムを見て、ジェイは軽く溜息を吐く。



挿絵(By みてみん)



 彼女がそれを脱ぐという事は、人を従属させる悪魔の魅了が解放される訳でもあるから、同じ部屋に居る彼としては遠慮願いたい。

 だが、このまま風邪をひかれては、もっと手間が増えるだけである。

「シャワーを浴びてこい、その一張羅はクリーニングに出しておく」

「分かった」

 ジェイの気苦労も知らぬ様子で、イリムは素直にシャワールームへ向かった。

 そして、まずは頭巾と金属製の額当て、マントを外す。



挿絵(By みてみん)



 続いて左手の小手、右手の手袋、小手とバランスを取るために着けている重し、外衣を外した。



挿絵(By みてみん)



 ちなみに、戦闘時は外衣を外し、マントから左腕を出し、額当てを右にズラした格好で挑む事が多い。



挿絵(By みてみん)



 上着一式を脱いだ後は、ミニのワンピースとボタンで繋がった、オーバーズボンを外す。



挿絵(By みてみん)



 そして、ネクタイを解いてワンピースのチャックを開ければ、ようやく下着に手がかかる。



挿絵(By みてみん)



 これほどパーツが多く脱ぐのが面倒くさい服を、一週間で作り上げた何処かの童顔は、魔術師よりもお針子の方が向いているのかもしれない。

 ともあれ、イリムが下着も脱いで裸になった時、タイミング良くジェイの声が響いてくる。

「服は外に出しておけよ」

「分かった」

 イリムは言われた通り、バスルームの扉を開いて、脱いだ服や小手を廊下に出しておく。

「ったく、どうしてホテルの風呂は、脱衣所が付いてないのか」

 扉を閉めた後、服の回収に来たジェイが何やら文句を言っている間に、イリムはシャワーで体の流れを落としてから、バスタブの蛇口を捻る。

 勢いよく流れ出したお湯が、溜まりきるのを待たず足を入れ、肩の高さまで満ちるのを静かに待つ。

 こうしてゆっくりお湯につかるのが、彼女の数少ない趣味だった。

 温かいお湯に包まれて体を癒す入浴は、食事と同様、常識や知識が欠けていても、問題なく楽しめるものだったから。

「ふぅ……」

 目蓋を閉じてお湯に身を委ね、気持ちよさそうに吐息を漏らす姿は、普段の人形めいた表情からはとても想像の付かない、何処にでも居る少女のよう。

 彼女の連れがそれを見たら、驚いて腰を抜かしたかもしれないが、残念ながら悪魔の力的にも倫理的にも、その機会は訪れないだろう。

「…………」

 イリムはふと裸の左腕――半年前からは小手で隠している時間の方が多くなったそれを見詰めて、白く狭い部屋に居た時の事を思い出す。

 あの頃は、バケツに入れられたぬるま湯とタオルで体を拭くだけだったが、それが当たり前だと思っていたから、不満を抱く事もなかった。

 けれど、お湯を満たしたバスタブにつかる心地よさを知った今では、あんな入浴とは呼べぬ寒々しい行為には、ピーマンを噛んだような苦々しさを覚えてしまう。

 それが『贅沢』という罪なのかどうか、彼女には判断がつかない。

 ただ、一つだけ疑問が過ぎる。

「私は、変になったのだろうか?」

 問いは風呂場の中に響くだけで、誰も回答を与えてはくれない。

 それが変質ではなく成長なのか、良化なのか悪化なのかも。

 イリムはお湯がぬるくなるまで入浴を楽しんだ後、タオルで髪を拭きながらバスルームを出ると、先程浮かんだ問いを連れに告げてみた。

「ジェイ、一つ質問がある」

 しかし、裸でベッドルームに戻った彼女に、「いいから服を着ろ!」というお叱りの言葉は返ってこない。

 問題の服と共に、ジェイの姿が部屋から消えていたのだ。

 その代わりに、テーブルの上にはメモが置いてあった。

『部屋の中で大人しくしていろ、問題が起きたらここに電話すること』

 続いて彼の持つ携帯電話の番号が書かれ、ご丁寧に『John・Loser』のサインまである。

 修道服のクリーニングが終わるまでの間、悪魔の魅了を垂れ流している少女と同室に居られる訳もないから、外に出て酒でも飲んでいるという事なのだろう。

 イリムは頷き、下着だけ着けてベッドに座り、リモコンを取ってテレビを点ける。

 けれども、三分と経たぬうちに立ち上がり、メモと備え付けの電話に手を伸ばした。

 そして、気持ちよく酒を飲んでいた男に、ある大問題を告げる。

「ジェイ、お腹が空いたのだが」

『勝手にルームサービスでも取ってろ!……いや、待て、俺が何か買って帰るから、部屋から出ず、誰が来ても扉を開けるなよ、いいな!』

 料理を運んできたホテルのボーイが、少女に心酔して面倒を起こす光景が過ぎったジェイは、即座に訂正して電話を切った。

 そうして、何だかんだで甘い保護者が、ハンバーガーセットを手に戻ってくるまでの間、イリムは丁度やっていた某島国製のアニメーションを観賞して、また余計な知識を増やすのだった。


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