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一つの結論

街の深夜は沈黙する、石造りの建物に石畳、余りに過酷な環境は人以外の生存を許さない、沈黙を破るのはいつも・・・・・・・


「疾っ」


闇の中を音を立てずにキールは走る、足音は1つ、気配は4つ・・・バラバラバラ!激しい音を立て、街中をビーズの音が反響する、ここで攪乱する意味は・・・っ!上から投げられる大型の投網!咄嗟に足元の立て看板を掴み上に放り投げる、投げられた網は看板を軸に閉じていく、滑り込んで網を交わし右の細い通路に入る、正面で待ち構える男がニヤリと笑う、逃げ場はない・・・キールは走りながら相手の呼吸と自分の呼吸を合わす、直前で踵を返し後ろを向き、相手の呼吸の変化に合わせ再び踵を返す、キールを追いかけるべく前に足を踏み出した男の頭上を飛ぶ、重心が前に偏った男は対応出来ない、キールはその先の左の建物の部屋に入り込んだ。


「お疲れ様、どうだった?」


「左右から追いかけてきた二人は足音もなく気配が掴みにくかった。真後ろの奴は足音を立てすぎて簡単に把握出来る、囮としてならいいかもしれない、ビーズの試みは面白いし、気配も掴みにくくなったが使うタイミングが悪い、逆に投網の罠に簡単に反応出来た。道にある立て看板は床に固定させないと相手に利用されるな、俺みたいな使い方をする奴はいないと思うけど、最後に細い通路に待ち構えてた奴は油断も隙も大きすぎる、要所に置くのは危険だな」


キールは気付いた点をシモーネに告げる、シモーネは大きく頷き机の上の地図を確認する。


「参考になったわ、有難う」


「俺も良い訓練になったよ」


2人が行なっているのは街の警備の練度を上げるための訓練と警備兵の実力の把握で、街の治安の悪化への対策でもある、時間を変え場所を変え行われる訓練は犯罪の抑止に繋がる、更に精鋭は訓練に加わらず訓練の後に要所に配置する、訓練の終了に合わせて動き出す狡猾な犯罪者程簡単に引っかかった。成果は上々である。キールがシモーネを手伝っているのは情報に対する対価である、婆ちゃんの情報を調べてもらう代わりに、治安強化を手伝う形だ。

シモーネは机の上を片付け、カップを2つ置き、コーヒーを注ぐ、手挽きミルを使用しているため香りが良い、キールはミルクと砂糖を入れたかったが、シモーネが使わなかったので、何となく意地を張り必要ないと断った。口の中に苦味が広がる、顔に出ないようにしつつ、次からはやはり砂糖だけでも入れようと心に決めた。一息ついた所でシモーネが話し出す。


「お婆さんの事調べ終えたわ、まず結果だけ言うとお婆さんは[存在しない]」


キールが思わず立ち上がろうとするのをシモーネは片手で制す。


「落ち着いて、正確には人々の中に存在しないという事、完全な欠落なのに矛盾が生じない異常、それが適用されるのは人の心のみ、物には矛盾が必ず生じるの、例えばコーヒーに砂糖とミルクを入れないのに何故かコーヒー用の砂糖とミルクが置いてある、みたいにね」


悪戯っぽく笑いながらシモーネはキールのカップに砂糖とミルクを添える、お見通しか・・ここまで来ると意地を張る意味も無い、素直にミルクと砂糖を入れる・・・美味い


「現場にある矛盾を調べて浮かんだお婆さんの形は自然主義者、人の作った加工品を殆ど用いず、自然と共に生きその恩恵に感謝する、そんな人間を最も好むもの・・・それに該当する人知を越えた存在は一つしかない・・・まず間違いなく精霊の仕業ね」


「何故精霊がこんな事をする?」


「神隠しって知ってるかしら?神に気に入られた人間は神に攫われる、人に抗うすべはない、精霊はお婆さんを気に入った。そして、その[存在全て]持ち去ったのよ」


「そんな勝手な事!・・・・クソッ」


「・・・恐らく精霊は契約をした代償にお婆さんを攫った可能性が高いわ」


「何故分かる?」


「ここから話すのはトップシークレット、また別の対価を頂くわ、いいわね」


「構わない」


「ギルドは冒険者登録時その人の持つほぼ全てのデータを読み取るの、キール君の情報も例外はない、その中に一際不思議な加護がある、それがお婆ちゃんの祈り、効果は即死攻撃無効、浄化の光、キール君がお婆さんを忘れてないのはこの加護が原因じゃないかしら?」


「・・・・・精霊に会う方法は在るのか?」


「お婆さんの様に自然に近い存在であるかのが1つ・・・もう1つは精霊界に直接行くしかない」


「精霊界に行く方法は?」


「こちらの世界と精霊界が重なる場所があると言われてるけどこれ以上は分からない・・・ここから遙か北のタバト山の頂に精霊信仰の村があると言われてるの、そこを訪ねてみたらどうかしら?」


「有難う、明日直ぐに発つ」




言い捨て俺は家を出る。


「そっか」


足元を見ながら噛み締めるように歩く


「婆ちゃん」


視界が滲む


「俺のせいで・・・」


足が止まる、前が見えない


「ぐっ・・・ぐそっ!・・こんな事・・」


婆ちゃん 婆ちゃん


「~~~~~~~~~~~~~俺のせいだっだ」




沈黙した街に、悔やむ心が静かに響く ただ悲しく ただ悔しく 繰り返し 静かに響く











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