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エレベーターに消える

作者: パンター

以前書いたものの続編ですが少し印象が違うかもしれません。設定が適当なのでスイマセン。

 単純な殺人事件だった。

 二股をかけられていた女子大生が同じゼミの男子大学生をナイフで差した、それだけの事件である。

 男子大学生は自室の居間でうつぶせで倒れていた。腹部を刺された男子大学生は携帯で119番に電話した。

 電話を受けた救急センターは事の次第に事件性を感じて警察に通報した。約十分後まず救急車が到着した。

 出血はかなりあったが致命傷とはならず男子大学生は命は取り留めた。

 そのすぐ後にパトカーが到着した。

 加害者の女子大生はすぐに逮捕できると誰もが確信していた。この時点では。

 捜査一課の刑事は頭をかしげた。彼はマンション内の監視カメラを再生し女子大生の行方を追っていた。

 彼女はもちろん自宅に帰っていなかった。それで手がかりを得るために監視カメラを再生していたのであるが、異常事態が発生した。そこにはある超常現象が映しだされていた。

 被害者の部屋がある5階のエレベーターホールから乗ったところまでは映っていたのだが、一階に降りてきたエレベーターからは誰も降りて来なかった。もちろん途中の階で降りた形跡はなかった。

 一体どこへ行ったというのだろう。

「魔法です」助手はきっぱりそう言い切った。

「安易だな」俺は答えた。難事件を全て魔法のせいにできればどんなにいいだろうか。

「歪みがエレベーター内に残っていました」

「魔法使用の痕跡。事象を書き換えた際の歪みか」

「はい。それほど深度は深く有りませんから歪みは小さいです。すぐに補正されて痕跡は消えてしまうでしょう」

「うむ。いよいよ難事件になってきたということか」

 と俺がそんなことを言っては解決できるものもできなくなるか。

 俺は刑事だ。警視庁内の特別ないや特殊な犯罪を捜査するセクションに配属された哀れな刑事だった。ある時点までエリート街道を進んでいたはずなのだが、どこでどう間違えてしまったのか。出世が期待できない墓場のような職場に島送りになっている。

 Boundary criminal Scene investigation.

 境界犯罪捜査班。科学と非科学の境界。現実と非現実の境界。あの世とこの世の境界。そんな境界の狭間で起こった犯罪を捜査するのが俺達である。と、そういえば助手の話をしていなかったな。

 民俗学を専攻する大学院生で自称魔法使いの堂金紅夏。変な名前。昭和の臭いがする黒縁メガネっ娘だ。

 そして俺は薬師時郎。決して薬師寺ではない。やくし、だ。

「彼女は瞬間移動をしたのか?」

「それは無理です。この程度の歪みから想定される魔法力では時空に干渉できません」

「壁抜けとか。エレベーターの壁を抜けて…」

「抜けて?」

「落ちる」

「はい。抜けるだけなら下へ落ちます。どこかの階のホールで降りないと」

「しかし、どの階のエレベーターホールを映したカメラにも映っていなかった」

「そうです」

「一体どこへ行ったのかな?」

「それは、分かりません」

「それは魔法によるものなのか?」

「はい。自身にかけているようですね。今どこにいるのか、捜索魔法でも発見できません」

「それは透明化の魔法なのか。だったら発見出来ないのも説明できる」

「違います。透明化魔法も科学的な方法でのステルス化と同じで存在自体を消すわけではありません。その場合捜索魔法で矛盾存在として検知できます。見えないのにそこにあるものとして」

「なるほど」

 存在がないということは、もうマンションにはいないということだな。

 だがどうやってここから抜けだしたんだ?かなりの返り血も浴びているから外をうろついていたら目撃情報があってもいいものだが。しかし未だ一件の情報も警察に届いていなかった。

「俺たちがここに来てからここから出ていったのは被害者と救急隊員だけだな。一応このマンションに潜んでいる可能性を考慮して玄関や非常階段には警官が配置されているから住人は一人も外出していない」

 とすれば、俺たちが来る以前に逃走したのか?その可能性はある。方法はわからないがまんまと逃げ出した。

 だがさっきも論じたが彼女は大量の返り血を浴びている。なのに目撃者がいない。どいうことだ?

 5階フロアで映された彼女の服にはべっとりと血が付着していたのだ。両手をぶらりと力なく下げた彼女は…

「あれ?」管理人室のモニターで再生画像を見ていた俺はあることに気づいた。

 俺は捜査一課の刑事に確認したがそうだった。

 凶器がどこにもない。

 刺し傷の様子からナイフだと想定されているがそのナイフが見当たらない。被害者の部屋のキッチンからルミノール検査で血液反応が出る刃物は見つかっていなかった。

 隠した。どこかへ捨てた。部屋を出た彼女の手にはすでに凶器はなかったから部屋にあるはずだ。が見つからなかった。ではどこに?

「そういえば」と助手が俺に一枚のカードを差し出した。

「ここへ来る前に例の小さな大魔女から預かってきたんですよ。これがヒントになるでしょうって」

 それはタロットカードだった。

 小さな大魔女とは、以前ある事件で知り合った魔女級の魔法使いの女子高生を俺と助手の間で呼んでいるあだ名だった。今は占い喫茶で土日程良く当たる占い師のバイトをしているらしい。彼女がその気になれば九十九パーセントと小数点以下にシックスナインの九がつく程の的中率で予言すら出来るのだが、それでは救いようがないこともあるので適当に当たる占いをしているのだ。

「月のカード」

 正位置では幻惑とか欺瞞とかの意味があったような。

 俺達が魔法で騙されている?そのための魔法か。

 エレベーター内で消えた加害者。発見できない凶器。

 そういえば部屋を見て気になっていたことがあった。あまりにも部屋の内部が綺麗だったことだ。

 被害者と加害者のあいだで生死を分ける乱闘があってもいいはずなのに、争った形跡がないのだ。いきなり刺されたということなのか。

「変だな」鑑識からの報告を聞いた捜査一課の刑事がおれの方にやってきた。

「部屋中どこにも飛沫血痕が見当たらないらしい。唯一血痕が見つかったのが俯せに倒れていたカーペットの上だったそうだ。あそこで刃傷沙汰があったとすれば飛び散った血痕が壁やか家具天井などに付着するはずなのに、たったの一滴も発見出来なかったということだ」

「つまりそれは…」

 あの部屋が殺害現場ではない可能性がある。

 それが欺瞞か。

「行きましょうか」

「どこへ?被疑者の足取りはまだつかめていないぞ」

「いいや、見つかりましたよ」

「え?」

 病院へと向かった。さっき被害者が収容された病院である。

「はい。確かに病院内で歪みを検出しました」と助手。

「どういうことだ?」と一課の刑事。

「今回の事件では魔法は二回使われた。そうしないとこの事件は説明できない。だがマンションでは一つしか痕跡を発見出来なかった。ならばもうひとつはどこへ行ったのか?」

「事件の被疑者自身と共に移動したということです」助手が補足を加えた。

「ちょっと待て。ちゃんと最初から説明しろ。なぜ二回魔法が使われたと言い切れる」

「あそこが事件現場ではないという事。もう一つはエレベーターに乗った被疑者が消えたという事。その2つを説明するには二回魔法が必要です」

 つまり、別の場所で被害者は殺害された。しかし被害者に見える何者かが被害者のマンションに帰ってきてそこで殺害されたように見せようとした。それが一つ目の魔法。

 もう一つは言うまでもなく被疑者が逃走途中に蒸発させて捜査を混乱させるために使われた。

「またまた補足ですが魔法の歪みは使われた魔法の種類によって術者の外部と内部のそれぞれに発生します。内部に発生した場合、術者がその場にいなければ検出できません」

「術者は救急車によって現場を離れたから歪みを検出出来なかった。また被害者が加害者とは誰も思わない。普通の警察の捜査網からも逃れられる」

「おい。それって、彼が彼女ということか?」

「はい。一種の変身魔法ですね。現代風に言えば被害者の肉体をコピーしたのです。しかも刺された直後の肉体ですね」

「生物学的には被害者そのもの。しかし精神と魂は被疑者の彼女」

 これで被害者として脱出できる。だがこれだけでは事件は成立しない。加害者がその場にいなければいずれ俺達の出番となる。一般には知られていないが、オカルト関係者にはおれたちの存在は結構知られているのだ。オカルト事件を有罪にできる唯一の司法側のセクションだからだ。

 そこでもう一つの魔法。

「今度は自身の虚像を創りだすために魔法が使われました。一応物理的な作用も起こせるのでエレベーターのボタンぐらいは押せます。陰陽術でいう式神みたいなものですね」と助手がまた補足。そっちの薀蓄は俺には説明できないから助手におまかせだ。

「これで現場で凶器が発見出来ないことと、飛沫血痕が検出できなかった説明はつきます」

 だが一つ問題がある。彼女は傷ついた肉体でそんなに遠くからここまで移動できるはずもない。

 それはつまり。

「本当の殺害現場がマンションの近くにある。被疑者の女子大生がマンションの近辺で最近頻繁に出入りした場所を聞き込んでみればわかるでしょう。そこに死体があるはずです」

 自身は傷ついているので病院暮らしを余儀なくされる。それでも死体が発見されないような場所にあるはずだ。

 傷が完治すれば姿を元に戻し今度は被害者の行方を消す予定のはずだ。これで事件は迷宮入りとなる。それを狙ったのだろう。

 傷口の縫合手術を終えた肉体が回復するのを待ち、事情聴取が行われて彼は彼女として自供した。

 事件は単純な痴情のもつれによる殺人事件として報道された。

 捜査は終了である。

「今回はおとなしかったがどうしたんだ」と助手に聞いてみた。

「担当の刑事がただのおっさんだったのでやる気が四割減でした」と助手。

「ドラマの見過ぎだ。イケメンの刑事がどこにいる?」

「はあ。それもそうですね」

 お年頃の女子にはそれは仕事の上でも重要なファクターなわけだ。

 しょうがないな。助手の好物の肉まんを腹いっぱい食わせてやるか。


 

 

 

アイデアが浮かんだので続編を書いて見ました。またいいアイデアがあれば書いてみたいです。

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