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沈黙。
杏子はこずもの背中に額を押し付けたままだ。
「杏子?」
「こずちゃん」
発した声には涙が含まれていた。
「キョウちゃん、あきらめたわけじゃないもん。ただ、榊原君が悩んでるの可哀想だから言っただけだもん」
「うん」
わかってるよ、とこずもは笑った。そうして振り返ると、いつも一生懸命なこの幼なじみの頭を撫でた。
「元気になったらまだまだアタックするもん」
「うん」
すん、と鼻をすする音に小さく微笑む。
正直以外だった。いつもつっぱしるだけの杏子がそんなことを言うなんて。いつもなら、これ幸いとばかりにアタックをかけて疎ましがられるのに。
いつも一生懸命なこの幼なじみの、いつもと少しだけ毛色の違う恋愛模様を、今回は応援してあげよう、と素直に思えた。
「杏子、ケーキでも食べて帰ろっか」