3−5−2
その日、三年三組の教室は驚く程静かだった。
その理由は誰の目にも明らかだ。昼休み、おのおの過ごしながらもちらちらとそちらをみる。
誰も気づいてはいないけれども、いつも教室に入り浸っている幽霊のちぃちゃんですら今日はいない。
いつも五月蝿いぐらい騒いでいる西園寺杏子が、今日はちっとも喋らない。友人達とお弁当を食べながらも、杏子は視線を動かす。
彼女の視線の先にいるのは、いつも彼女が五月蝿いぐらいつきまとっている榊原龍一。今朝から龍一は殆ど口をきかず、暗い空気をまき散らしている。さすがの杏子もそんな龍一には話しかけられない。
今は昼ご飯も食べず、机に突っ伏している。
「杏子、こぼしそうだよ」
友人の海藤こずもに指摘されて、慌てて杏子は前を向き直る。
入れ替わりにこずもが龍一の方を見る。小さく舌打ちした。
廊下で今日何度目かわからない電話を終えると、翔はケータイを閉じた。業務連絡だ。
教室に戻ろうと振り返ると
「海藤さん」
こずもがドアに寄りかかっていた。不機嫌そうに。
「巽、榊原に一体なにがあったの?」
睨みつけるような目。
「迷惑なのよ。何があったのか知らないけどあんな風に落ち込んで。おかげで杏子までなんか調子悪いし、クラス全体の雰囲気も悪いし」
舌打ち。
「言っとくけど、榊原のことを心配しているわけじゃないから。ただ、クラス全体の空気が悪くなるのはHR委員としては許せないのよ」
めちゃくちゃな論理に少し驚いて、少し笑う。
「何笑ってんのよ」
睨まれる。
「海藤さん」
自分達が何を言っても、多分龍一は動けない。翔も一海の人間も、龍一のことを気遣うからだ。事情を知っているということは、時にネックになる。
でも、こずもの強引さと勢いがあれば、もしかしたら。
「ここじゃあれだから、別の場所で説明するよ」