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3−4−8
「これが、あんたの部屋にあったあんたの日記」
ピンクの鍵のついたノートを渡す。
「それからこっちが、龍一君の事件の時の記録」
ファイルされた書類を渡す。
沙耶は静かにそれを受け取った。
「ありがとう」
「沙耶? 大丈夫?」
円は隣に座ると、沙耶の額にかかった髪を右手でそっとかきあげた。
「無理しなくて、いいのよ?」
「ううん」
ピンクの表紙を撫でながら、沙耶はゆっくりと首を振った。
「あたし、あの人のこと、誰だかわからなかった。でも、あたし」
顔をあげて円を見つめる。
「あたし、すごく大切な人がいるの。それだけは、覚えている」
そうして、強引に笑ってみせた。
「だからあたしは、思い出さなくちゃいけない。あたし、あの人の悲しむ顔だけは、見たくない」
そう、と円は下がった眉で笑う。
そうして、ゆっくりと沙耶の頭を撫でた。
あの人は、ものすごく傷ついた顔をした。それでも小さく微笑んだのはきっと、自分のことを気遣ってくれたからだ。忘れた事なんて気にしてない、とでも言いたげに。
だから、思い出さなくては。彼がまたくる前に。
そして、日記の表紙を開いた。