表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第四章 有声慟哭
90/157

3−4−4

 縁側に座ったまま、黙って外を見ていた。

「龍一君」

 声をかけられて我に返った。

「直純さん」

 直純は少しだけ微笑むと

「はい、少しでもとりあえず食べな」

 お皿にのったおにぎりを手渡す。

「……ありがとうございます」

 欠片も食欲はなかったが素直にそれを受け取る。外はすっかり暗くなっていた。

「……すみません、俺、役にも立たないのにここにいて」

 受け取った皿を膝の上で抱える。

「龍一君のおかげで、龍がとまったんだろう?」

「別に俺がなにかしたわけじゃ……」

「君がいてくれることで大分助かってるんだ、こっちは」

 一呼吸置き、

「忌々しいけどな」

 直純は吐き捨てる様に付け加えた。

 驚いて顔を見る。

「忘れた訳じゃないだろう? 君と俺は言わばライバルなわけだ。なのにライバルの方がどう見ても、明らかに、はっきりと、先を進んでるんだ。しかもそのライバルの力を借りなきゃ、彼女を助けられないなんて、終わってる」

「……それは、俺だって同じです」

 現に、自分は今ここにいて何の役にも立っていない。

「だから、直純さん、俺」

「あのな、」

 龍一の台詞を遮り、直純は一つ押し殺したような息を吐く。

「君が霊的なことについてまでどうにかできるようになったら、俺は一体どうすればいいんだ。意味なくなるだろうが」

 直純は切れ長の目を不機嫌そうに細める。勢い良く告げる。

「こっちは、生まれてから28年間一海本家の人間としてやってるんだ。専門なんだよ。ふらっと現れた素人にほいほい手伝われたら立つ瀬がないだろうが。君はそこでおにぎりたべて、部屋用意してあるからとりあえず寝てろ。何かあったらちゃんと起こすから。ちょっとは専門家信じて、黙って寝ていろ」

 勢いに呑まれてあっけにとられている龍一に

「わかったな!」

 人差し指をつきつけ、もう一度念を押すと足音も荒く立ちさる。

「……慰めて、くれたのか?」

 その後ろ姿を見ながら小さく呟く。

 手に持ったおにぎりをみる。食欲はわかなかったけれども、強引に飲み込む。

「言えなかったな」

 本当は直純でも円でも翔でもいい、誰かにあったら頼もうと思っていた。

 沙耶がもし、自分のことを忘れていたらそのときは榊原龍一という人間は大道寺沙耶に会ったことがない、そういう風にして欲しかった。

 それが正しいのかどうかはわからない。それでも、それが一番沙耶を傷つけない方法な気がするのだ。居なかった人間は忘れようがないのだから。

 でも、言えなかった。それに少し安堵している自分もいる。

 どうしたらいいのか、やっぱりわからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ