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縁側に座ったまま、黙って外を見ていた。
「龍一君」
声をかけられて我に返った。
「直純さん」
直純は少しだけ微笑むと
「はい、少しでもとりあえず食べな」
お皿にのったおにぎりを手渡す。
「……ありがとうございます」
欠片も食欲はなかったが素直にそれを受け取る。外はすっかり暗くなっていた。
「……すみません、俺、役にも立たないのにここにいて」
受け取った皿を膝の上で抱える。
「龍一君のおかげで、龍がとまったんだろう?」
「別に俺がなにかしたわけじゃ……」
「君がいてくれることで大分助かってるんだ、こっちは」
一呼吸置き、
「忌々しいけどな」
直純は吐き捨てる様に付け加えた。
驚いて顔を見る。
「忘れた訳じゃないだろう? 君と俺は言わばライバルなわけだ。なのにライバルの方がどう見ても、明らかに、はっきりと、先を進んでるんだ。しかもそのライバルの力を借りなきゃ、彼女を助けられないなんて、終わってる」
「……それは、俺だって同じです」
現に、自分は今ここにいて何の役にも立っていない。
「だから、直純さん、俺」
「あのな、」
龍一の台詞を遮り、直純は一つ押し殺したような息を吐く。
「君が霊的なことについてまでどうにかできるようになったら、俺は一体どうすればいいんだ。意味なくなるだろうが」
直純は切れ長の目を不機嫌そうに細める。勢い良く告げる。
「こっちは、生まれてから28年間一海本家の人間としてやってるんだ。専門なんだよ。ふらっと現れた素人にほいほい手伝われたら立つ瀬がないだろうが。君はそこでおにぎりたべて、部屋用意してあるからとりあえず寝てろ。何かあったらちゃんと起こすから。ちょっとは専門家信じて、黙って寝ていろ」
勢いに呑まれてあっけにとられている龍一に
「わかったな!」
人差し指をつきつけ、もう一度念を押すと足音も荒く立ちさる。
「……慰めて、くれたのか?」
その後ろ姿を見ながら小さく呟く。
手に持ったおにぎりをみる。食欲はわかなかったけれども、強引に飲み込む。
「言えなかったな」
本当は直純でも円でも翔でもいい、誰かにあったら頼もうと思っていた。
沙耶がもし、自分のことを忘れていたらそのときは榊原龍一という人間は大道寺沙耶に会ったことがない、そういう風にして欲しかった。
それが正しいのかどうかはわからない。それでも、それが一番沙耶を傷つけない方法な気がするのだ。居なかった人間は忘れようがないのだから。
でも、言えなかった。それに少し安堵している自分もいる。
どうしたらいいのか、やっぱりわからない。