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調律師  作者: 小高まあな
第四章 有声慟哭
87/157

3−4−1

「……参考までに聞きますが、公にはなんていうんですか?」

 円が運転する車の助手席に座った巽翔は尋ねた。

「竜巻」

 前を見据えたまま、ただ一言だけ返す。

「……無理がありません?」

「嘘は言ってないじゃない。竜巻っていうのはね、龍が巻くって書くのよ?」

「……。なんていうか、一生円さんには勝てない気がします」

 その会話を後部座席で黙って龍一は聞いていた。膝の上の沙耶の頭をゆっくりと撫でる。涙のあとが残る頬。

「……、円さん」

 ゆっくりと絞り出すようにして声をだす。

「なぁに?」

「沙耶、もう限界だって言っていたけど、ごめんって泣いていたけど、それって……、やっぱり……」

「……」

 円は一度バックミラー越しに龍一の方を見た。

「ごめんなさいね、龍一君」

「じゃあ……」

「ええ、多分、この子が次に目覚めたとき、覚えていることはだいぶ少ない」

「……そうですか」

 つないだ右手をきつく握った。


 たどり着いたのは大きな家、どちらかというとお屋敷だった。

「……ここは?」

「実家」

 円が端的に答える。

 日本家屋というのが相応しい。知ってはいたけれども、やはりお嬢様なんだなと思った。

「円っ!」

 直純が駆け寄ってくる。円と直純と、他の人たちが話し合っているのを見ながら、龍一は後部座席から動けないでいた。

 繋いだ右手に力を入れる。沙耶の目は開かない。

 昨日、ちゃんと追いかければよかった。子どもじゃない、と言われた事に腹を立てたりしないで。ちゃんと後を追いかけて、円のところまで着いて行って、ちゃんと目の前で謝ればよかった。

 なのに自分は暢気にメールが来ないことを憤ったりして。だから、子どもなんだ。

「龍一君」

 ドアが開けられる。

「……直純さん」

「沙耶、いいかな?」

 気遣う様に言われる。直純にこんな風に気遣われたのは初めてかもしれない。

 小さく頷く。

 直純は少しだけ微笑んでみせると、沙耶の体をそっと持ち上げた。

 そのまま家の中に入って行くのを見送る。直純に抱えられた沙耶から黒髪が揺れる。それをぼーっと見守る。

「龍一君」

 声をかけられる。横を見る。円が困ったような顔をして

「とりあえず、中、入って」

 円の困ったような顔も初めて見た気がする。ゆっくりと車から降りた。


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