3−3−4
どうして? どうしてどうしてどうしてどうして。
ぐっと左肩を抑え込む。
普通に事務所に向かっているだけだった。普通に歩いているだけだった。それなのに、なんで。
「とまりなさい」
呟く。
突然現れた龍は辺りを暴れる。
「とまりなさいっ」
殆ど悲鳴のような声がもれる。
どうしてなんでどうして。どうしてこんなことに。
また、目眩がした.昨日のよりも強力な揺れ。
住宅街から、人の少ない公園にまで来ることができたのは幸いだった。
見えない人からしたら、突然木々が折れ出したように見えるだろう。逃げ出した子連れの親子は大丈夫だったろうか。怪我をしていないだろうか。
意識があるのに龍を抑えることが出来ない。意識が飛ばされているのとは違う。
「沙耶っ!」
声がする。悲鳴のような声で一瞬だれだかわからなかった。見慣れた顔。
「円姉……」
「なんでっ」
とまらない。どうしよう。誰か助けて。これ以上、何かを壊す前に。
「円姉」
かすれた声しかでない。
「ごめん、お願い……」
意味を悟って、いつも冷静な円の顔が歪む。必死に首を横に振る。
「待ちなさい。大丈夫だから、どうにかするから、だから」
言って近づこうとするのを、龍が阻む。
「ごめんなさい、もう、いいから」
だから、
ぐっと肩をにぎって、
「沙耶っ!!!」
叫ばれた声は、円の物ではなかった。
「りゅう、いち……」
「龍一君」
一瞬、龍の動きが鈍る。
瞬間、円が沙耶の元まで近づく。
「沙耶っ」
再び円を阻もうとする龍。
「円さん、はやくっ」
それを翔が庇う。一部だけ龍の動きを止める。
「まどかねえ……」
「大丈夫」
近づいて唱える。龍を封じ込める祝詞。
何度も何度も。
ゆっくりと、龍が消えて戻って行く。
「沙耶っ!!」
龍一が走って近づいてくる。
学校だったのに、ごめんね。そんなことをふっと思う。
「沙耶、大丈夫?」
「ごめん」
横に片膝をついた龍一の首筋にしがみつく。慌てて龍一はその背を受け止めた。
「ごめんなさい、あたし、もう限界だ」
声がかすれる。
どうして。こんなことになるならば、ちゃんと謝ればよかった……。
「え?」
「せめて、龍一のことは覚えていたかったのに」
小さく小さく呟くと、腕の力が抜けて沙耶の手が首筋から離れる。慌てて龍一はその体を受け止めた。