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調律師  作者: 小高まあな
第三章 龍と一人の女
86/157

3−3−4

 どうして? どうしてどうしてどうしてどうして。

 ぐっと左肩を抑え込む。

 普通に事務所に向かっているだけだった。普通に歩いているだけだった。それなのに、なんで。

「とまりなさい」

 呟く。

 突然現れた龍は辺りを暴れる。

「とまりなさいっ」

 殆ど悲鳴のような声がもれる。

 どうしてなんでどうして。どうしてこんなことに。

 また、目眩がした.昨日のよりも強力な揺れ。

 住宅街から、人の少ない公園にまで来ることができたのは幸いだった。

 見えない人からしたら、突然木々が折れ出したように見えるだろう。逃げ出した子連れの親子は大丈夫だったろうか。怪我をしていないだろうか。

 意識があるのに龍を抑えることが出来ない。意識が飛ばされているのとは違う。

「沙耶っ!」

 声がする。悲鳴のような声で一瞬だれだかわからなかった。見慣れた顔。

「円姉……」

「なんでっ」

 とまらない。どうしよう。誰か助けて。これ以上、何かを壊す前に。

「円姉」

 かすれた声しかでない。

「ごめん、お願い……」

 意味を悟って、いつも冷静な円の顔が歪む。必死に首を横に振る。

「待ちなさい。大丈夫だから、どうにかするから、だから」

 言って近づこうとするのを、龍が阻む。

「ごめんなさい、もう、いいから」

 だから、

 ぐっと肩をにぎって、

「沙耶っ!!!」

 叫ばれた声は、円の物ではなかった。

「りゅう、いち……」

「龍一君」

 一瞬、龍の動きが鈍る。

 瞬間、円が沙耶の元まで近づく。

「沙耶っ」

 再び円を阻もうとする龍。

「円さん、はやくっ」

 それを翔が庇う。一部だけ龍の動きを止める。

「まどかねえ……」

「大丈夫」

 近づいて唱える。龍を封じ込める祝詞。

 何度も何度も。

 ゆっくりと、龍が消えて戻って行く。

「沙耶っ!!」

 龍一が走って近づいてくる。

 学校だったのに、ごめんね。そんなことをふっと思う。

「沙耶、大丈夫?」

「ごめん」

 横に片膝をついた龍一の首筋にしがみつく。慌てて龍一はその背を受け止めた。

「ごめんなさい、あたし、もう限界だ」

 声がかすれる。

 どうして。こんなことになるならば、ちゃんと謝ればよかった……。

「え?」

「せめて、龍一のことは覚えていたかったのに」

 小さく小さく呟くと、腕の力が抜けて沙耶の手が首筋から離れる。慌てて龍一はその体を受け止めた。


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