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3−3−3
「それでねー榊原君」
杏子の話を聞き流す。英単語帳をぺらぺらとめくる。
はやく帰りのSHR終わらないだろうか。
単語は頭に入らない。いつまでもメールを待つなんて女々しいな。本当にただ単に、仕事が忙しいのかもしれないのに。社会人だから。
自分で考えたその言葉に、自分で傷ついた。何にしても傷つくのか。
どんっ
杏子の声を遮る様に、突然大きな音が響いた。
枝が一つ、窓に当たった。
教室にいた全員が窓の方を見る。遠くの方で枝葉が風に舞う。
「何ー?」
杏子が呟く。教室がざわめく。
「え、台風?」
「こんな急に?」
だんっ
「榊原君!?」
机を蹴飛ばす様にして立ち上がると、龍一は教室を飛び出す。
今、見えたのは! 今のはっ。
「榊原っ!」
『龍一!』
後ろから声をかけられる。翔とちぃちゃんだ。
「巽っ、今のはっ」
頷かれる。
呼吸が、止まるような気がした。
あの、窓の外に見えた黒い影は。
「沙耶さんの、龍だ」