3−3−2
『よぉ、龍一』
頭上から聞こえてくる明るい声に眉をひそめた。
『りゅーいちー、きいてるのかー』
学校にいる幽霊のちぃちゃんだ。答える代わりに右手をあげた。
テンションがあがらない。
昨日の遊園地の一件から、沙耶からメールが返ってこない。やっぱり、怒らせたのだろうか。それとも他の何かだろうか。
「榊原」
かけられた声に振り返る。
「おはよう」
「ん、おはよ」
巽翔だった。
「暗いな……。沙耶さんから連絡がない?」
「ああ。何か聞いた?」
「いいや、悪い」
「そっか」
ため息をつきながら、教室のドアをあける。
「おはよー、榊原くーん」
甲高い杏子の声にもう一度ため息をついた。
目が覚めた。
頭痛は少し和らいだ。
沙耶はゆっくりと体を起こした。
正午過ぎ。
「仕事、行かなきゃ」
立ち上がる。
その前にシャワーを浴びて、円の部屋にはいくつか服を置いている。化粧品も少し借りよう。
「よし、大丈夫」
微笑んだ。
鏡の中の自分はちゃんと笑っていた。
「沙耶、今から来るって」
ケータイを閉じながら円が言った。
「そっか」
「んー」
少し宙を見て、
「心配だからちょっと迎えに行ってくるわ。うちからだと交通の便悪いし」
言って円は立ち上がった。
「なんだかんだで円は俺より心配性だよな」
直純が小さく呟いて笑った。