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調律師  作者: 小高まあな
第三章 龍と一人の女
83/157

3−3−1

 翌朝。

「二日酔いね」

 円は、さくっと切り捨てた。

「うー」

 ベッドの上で枕を抱えたまま沙耶がうなる。それを呆れて円は見下ろす。

「まぁ、昨日は煽った私が悪いし。昨日、休日出勤してもらっちゃったし。そこでうだうだしてなさい。治ったら来ればいいから。合鍵、持ってるでしょ」

 言って立ち上がる。

「何……、その気遣い?」

「別に? いつも優しいでしょ、私は」

 言うとさっさと部屋を出て行く。

 その後ろ姿を見送り、鍵がしまる音が部屋に響く。

 ため息をつき、枕元のケータイを引き寄せる。

 龍一から謝罪のメールが来ていた。返信しようと画面を開くけど、やっぱり頭が痛くてそれを閉じる。

「あたしの倍以上飲んで平気とか、本当円姉ってばけもの」

 代わりに小さく呟いて、瞳を閉じた。



「沙耶は!?」

 事務所に来てそうそう、清澄がそう言った。

「二日酔いで私の部屋で行き倒れてる」

 書類を見たまま、背を向けたまま、円が答えた。

「二日酔い? 沙耶が二日酔いになるまで飲んだ訳? なんで?」

「どうせ円が煽ったんだろう」

 給湯室からコーヒーカップを二つ持って出てきた直純が言う。

「失礼ねー、まあ、そうだけどね」

「清澄もいる?」

「あ、うん、もらう」

 言いながら自分の席に座る。

「何? なんか沙耶に用でもあったの? 直、このコーヒー苦くない?」

「普通だろ。はい」

「ありがとう」

 清澄は渡されたコーヒーを一口飲み

「いや、昨日ここに祐子が来ちゃって」

「カノジョちゃんが?」

「うん、それで沙耶に会っちゃったから……、大丈夫かなっと思って。もしかして、それで自棄酒だったりとか、しない?」

 直純が切れ長の眼を細めた。

「清澄は平気なのか?」

「え?」

「また喧嘩になったりとかは……」

「あ、うん、それは、大丈夫。俺が選んだ仕事だから」

 左手をぱたぱたとふり、微笑む。

「あんまり、カノジョに心配かけないようにね」

 書類に眼を落としながら円が言った。

「うん、わかってる」

 円は書き上げた書類を封筒に入れると

「それで、来たばっかりで悪いけどお使いお願い」

 それを清澄に渡す。

「それ、啓之のとこ持って行って。で、代わりに書類渡されると思うから持ってきて」

「病院?」

「うん」

「わかった」

 清澄は残ったコーヒーを一気に飲み干す。

「直さん、やっぱりコーヒーちょっと苦いと思う」

「ほらー、やっぱりー」

 清澄の言葉に円が嬉しそうに笑い、直純が眉をひそめる。

「普通だってば」

 それを見て清澄は笑うと、

「それじゃ、行ってきます」

 鞄を持って立ち上がった。

 ドアが閉まり、足音が消えてからたっぷり30秒後、

「円」

「直」

 お互い同時に名前を呼び、顔を見る。

「沙耶、大丈夫なのか?」

「微妙。これ見て」

 言ってケータイを手渡す。

「啓之からのメール」

 読み終えて、

「目眩で倒れかけたって、これ」

「うん、本当に体調不良だったのかもしれないけど、微妙よね」

 桜色した爪で机の上を何度も叩く。

「龍だったらどうしよう」

「でも、何もないのに?」

「何も無いから危なくない?」

「それは、なー」

 お互いに小さくため息。

「明日にでも、沙耶連れて父様のところいくわ」

「うん、頼むわ」

「龍を抑えてる力が弱くなってるとか、そういうんじゃないといいけど」

 言ってコーヒーカップに口をつけると、その苦さに眉をひそめた。


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