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調律師  作者: 小高まあな
第二章 いやなんです
82/157

3−2−7

 眠っている沙耶に寝室からとってきた毛布をかける。眉間にしわを寄せて寝ているから、とりあえず指でそのしわをのばしておいた。

 何があったのか知らないけれども、今日は一段と荒れていた。

 小さくため息をついて、円はテーブルを片付けようと立ち上がった。

 背後で小さな電子音。

 振り返ると、ソファーの上に放り出された沙耶のケータイが音を立てていた。着信表示は榊原龍一。

 一瞬ためらってから、その小さな機械を耳にあてた。

『あ、沙耶』

「こんばんは、龍一君」

『え、あれ? 円さん?』

 裏返った声に笑う。

「ごめんね、沙耶今寝てて……」

『そうですか……』

 小さなため息が聞こえる。

「ごめんね」

『いえ……、あの、沙耶、大丈夫ですか?』

「……うん」

 黙っていた方がいいことも多分ある。

『ならいいんですけど。今日、クラスで遊園地に行くっていう企画があって、それとばったり会っちゃったんで』

「巽のおぼっちゃまが言ってたやつね。今日だったんだ。そっか、それで……」

 急に世界が違うとか言い出したのか。

『怒ってませんでしたか?』

「寧ろ龍一君が怒ってないか気にしてたけど?」

『俺は、別に……』

「大丈夫、いつも通り」

『なら、いいんですけど……』

「龍一君」

『はい?』

「いつも、ありがとね」

『え?』

 電話の向こうで龍一が笑ったのがわかった。

『どうしたんですか? 急に』

「んー、なんとなく。あの子気まぐれで大変でしょう?」

『確かに沙耶の発言ぶれることが多いですけど、俺の事気遣ってくれているの分かるから、別に気まぐれなんて思いませんよ』

 そして、小さなため息。

『別に、気遣って欲しいとは思ってないんですけどね……。そんなに頼りないかな、俺』

 付け足される様に呟かれた言葉。かける言葉が特に思いつかなくて、円はただ黙っていた。

『すみません、円さんに言ってもしょうがないですよね。それじゃあ、また』

「あ、うん。またね」

 言って電話を切る。それをテーブルの上に置く。

 上手くいって欲しいと思っている。龍一が沙耶の龍のことを知っても離れて行かなかった、恐れなかった。あの時、彼となら状況は改善すると思った。

「高校生に頼り過ぎ、かな」

 お互いに仲良くすればするほど、遠ざかっている気がする。どうすればいいのかがわからない。

 小さく息を吐くと、ショートの髪をかきあげる。こればかりはどうしようもないことだ。

 食器を持って立ち上がる。ここを片付けて、もう寝よう。


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