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「榊原。そういう顔を、こういうところでするな。と僕に言われるようでどうする」
不愉快さを隠しもせずフードコートの椅子に座ってコーラのストローを何度も弾いていた龍一が顔あげると、そこにはアイスコーヒーを片手にもった巽翔が、呆れたような顔をして立っていた。
「意外だな、巽がいるなんて」
クラス会に来るようなキャラじゃないと思っていた。
「……円さんが、」
「ああ、押し切ったんだ」
「もっと子どもらしいことをしなさい、と。まったく、人の気も知らないで」
その気持ちは分かる気がした。相手に子ども扱いされたくなくて、相手に釣り合う人間になりたくて、必死にあがいているのに、なのに向こうはこちらの気も知らないで、容易に子ども扱いする。
「こどもじゃない、か」
先ほどの言葉を思い出し、小さく呟く。
「痛いな、お互い」
翔がいたわるように微笑む。
「だけど、君がそんなんでどうするんだ?」
「わかってる。沙耶には悪気はないんだろうし。……だから、困るだろうが」
机の上に肘をつき、額に手をあてる。
こどもじゃない、と言った瞬間、一瞬だけ、彼女の表情が歪んだ。多分、自分でも何を言っているかわかったのだろう。気持ちを察するのは敏感な人だから。
「悪い」
素直に翔は謝った。
「いや」
龍一は額に手を当てたまま首を横に振った。
「巽が悪いんじゃない」
じゃあ、誰が悪いのか? 沙耶は悪くない。じゃあ、自分が悪いのか? でも、今高校生なのは決して龍一のせいでもない。
「誰も悪くないって最悪だな」
小さく呟くと、向かいの席に腰掛けた翔が頷いた。
こんなところで、こんな風に、遊んでいる場合ではないのに。早くはやく、追いつかなくちゃ。
でも、どうやったら追いつくのか、彼女と釣り合うのかがわからない。
「榊原くーん」
杏子の甲高い声と足音が、近寄ってくるのを背中で感じた。