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調律師  作者: 小高まあな
第六章 不屈の想起装置
71/157

2−6−1

 かちゃり、ドアが開く音に沙耶は顔をあげた。

「おかえ、り?」

 入ってきた人物を見て首を傾げる。

「円姉、どうしたの?」

「え、何?」

 直純もドアの方を振り替える。

「わっ」

「わって、何よ。失礼ね」

 出かけた時は肩まであったはずの円の髪が、ショートになっていた。

「失恋?」

「清」

 横から声をかけた清澄にひくーい声を返した。

「円姉、ピアスあきまくっているからショートだと怖い。見ていて痛い」

「だから気を使って耳はあんまりださないようにしてるじゃない」

「いいんじゃない、似合ってる。勤務時間中に美容院行くのはどーかと思うけど」

 沙耶はそういって笑うと、紅茶入れるね、と立ち上がった。

「どうしたの?」

 隣に腰をおろした従姉を見る。

「別に。清澄、冷蔵庫に昨日作ったパイがあるから、切ってきて」

「はいはい」

 清澄が立ち上がる。

「なにがあったわけ?」

「別にー」

「嘘ばっかり。急に髪の毛切ってくるなんてあのときみたいだ」

 そういって、直純は笑う。それを横目でじろりと睨む。

「あんた、物覚えがよくていやな子ねー、知ってるけど」

「お互い様だろ?」

「あの時と一緒。気合いを入れ直したの」

 ふんっと円は笑った。

「あんただって、さくっと龍一君に沙耶をとられたらいやでしょう? 今まで沙耶の事見てきたのは私たちなのに、ぽっと現れた他人が、いくらいい子でも、はいどうぞ、って沙耶から離れる気も譲る気もないの。子どもじみたヤキモチでも、対抗心でも」

 直純は従姉の横顔を見つめ、

「ああ、そうだな」

 ゆるり、と微笑んだ。

「私たちは調律師、よ」

 前を見たままだった円は、直純に視線を移すと唇の端をあげる。

「紅茶はいったよー」

 沙耶の声がする。

 円は何事もなかったかのように、

「待ってたー」

 沙耶の方に声をかける。子どものように椅子をかたかたと前後に動かす。

「手伝ってよ」

「はいはい」

 仕方なさそうに立ち上がる。

 それを見ながら、直純は無茶な従姉が以前気合いを入れ直した時の事を思い返して、唇を緩めた。

「調律師、ね 」


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