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調律師  作者: 小高まあな
第二章 ありがとうございました、と依頼人は言った。
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1−2−1

 雨の交差点で沙耶は、濡れるのも厭わずに傘を差さずに立っていた。黒いセーラー服が雨に濡れて重い。それでも、学校から家までは近いから、傘がなくても構わないと思っていた。

 それに、雨は嫌いではない。全てを洗い流してくれる気がして、雨は、嫌いではない。

「大道寺さん」

 そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられて振り返る。濡れた髪の毛が額に張り付く感覚を鬱陶しいと思った。

「あなた、この間の」

「そう、階段から落ちたまぬけでーす!」

 同じ学校の制服を着た男の子がおどけていった。

 先日、階段から落ちた沙耶に駆け寄ろうとして、自分も滑り落ちた人。変わった人だから珍しく顔を覚えていた。

 思わず沙耶のことを巫女姫様、と呼んだ彼が自分にとって大切な存在になるとは、その時知る由もなかった。そう考えて沙耶は、これは夢だと気がついた。

「何?」

「その、傘ないなら送っていこうかと思って」

「結構です」

「ええっと」

 降りかかる雨が自分にかからなくなる。見上げると、彼の傘がそこにあった。

「あなたって物好きなフェミニストね」

 思わず呟く。

「送ってくって」

「結構です」

「遠慮しないで。ええっと、おうちどこ?」

 目の前のマンションを見る。そこが自宅だ。

「大道寺さーん」

 情けない声で呼びかけられる。

「……あなた、名前は?」

 彼はへにゃっと笑った。

「賢治。堂本賢治」

「……そう」

 信号が変わった。ゆっくりと歩き出す。それにあわせて彼も歩く。

「あなた、どうしてあたしに構うの?」

「んー、惚れたから!」

 あっけらかんと言うその人を変った人だと思った。まったく、こんな人間のどこがいいのだろう。

「……送ってもらえるならばお願いします。とはいっても、すぐそこだけど」

 そういって、目の前のマンションを指差す。彼の間の抜けた顔が面白かった。

 マンションのエントランスまで送ってもらい、

「ありがとう。堂本君」

 そう告げて別れた。

「どういたしまして」

 彼はゆっくりと微笑んだ。

 こんな夢を見るのは、きっと、あの依頼人のお礼の言葉が原因だろう。そう思った。

 あの顔は、とても彼に似ている。

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