表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第四章 もう、人間じゃない?
66/157

2−4−7

「龍」

 階段下に腰掛けていると、後ろから声をかけられた。

「待たせた」

「沙耶に変な事を吹き込んでないよな」

 睨みつける。

 雅は何故か楽しそうに笑った。

「あの人を、不幸にするなよ」

 何故かとても上から目線で言ってのけると、すたすたと階段を下りて行く。

 相変わらず、自己中で意味のわからない姉の後ろ姿をみてため息を一つ。自室に戻るために立ち上がった。


「沙耶、ごめん、雅がー」

 言いながら龍一はドアをあけて、

「沙耶?」

 一瞬、息を飲んだ。

「ああ、ごめんね、懐かしくて」

 言いながら沙耶が見ていたのは数学3Cの問題集。

「数学、好きだったから」

「それ、机の上にだしっぱなしだった、りした?」

「うん?」

 首を傾げられて、いや、全然いいんだけど、とごまかした。全部しまったはずなのに。

「懐かしいなー」

「沙耶、雅なんの話だったの?」

 沙耶は顔をあげ、

「内緒」

 悪戯っぽく笑った。

「内緒って。どうせ俺の悪口だろ?」

「それは違うわ。いい、お姉さんね」

 微笑む。

「……いいお姉さん?」

「円姉に似ている」

「横暴で傍若無人なところ?」

「だからこそ、優しいところ」

 ぱたり、と問題集を膝の上で閉じる。

「とっても、優しい人ね」

 思わず首を傾げる。

 それを見て、沙耶はくすりとわらった。

「これ、ありがとう」

 そのまま膝の上の問題集を机の上に置こうとし、

「あれ?」

 龍一を振り返る。

「でも、数3Cって龍一確か文系じゃ……?」

「龍ちゃーん!」

 沙耶の言葉を母の能天気な声が遮った。

「ごはんできたわよー!」

「わかったー」

 階下から響く声に、ドアを開けて返事をする。

「なんか、落ち着きなくてごめんね」

「ううん」

 沙耶は椅子から立ち上がり、スカートの裾を揃えながら

「楽しい」

 端的に答えた。

 部屋をでて、ドアを閉めながら小さく龍一は息を吐いた。

 たまにはタイミングのいいことをするのだ、うちの母親は。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ