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調律師  作者: 小高まあな
第四章 もう、人間じゃない?
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2−4−3

「榊原」

 帰りのSHR終了後、担任が手招きする。

 なぜ呼ばれるのか、分かっていたから迷わず向かう。

 廊下の端で担任が示したのは、案の定先ほどの藁半紙だった。

「お前、これ本気か?」

「本気ですよ」

「だって、お前、文系だろう?」

「そうですね」

 反対されるだろう、とは思っていた。三年の四月に、180度志望学部を変更するなんて、そんなこと。

「確か、去年までは文学部って言ってなかったか?」

「言いました」

「お前、それは、なんていうか……。私立だって試験科目違うだろう? 今から?」

「今からです。不可能ではないと思います」

「ちゃんと調べたのかよ?」

「調べました。昨日本屋で参考書も買ってきました。無理でも何でも、もう決めたので」

 決然と、担任の顔をみる。

「決めたんです。俺は、どうしても」

 そういって、藁半紙を指差す。

「ここに、行きます」

 浪人してでも、絶対に。そうやって続けると、担任は困ったような息を吐いた。

「せめて大学のレベルを落とすとか」

「ここじゃないと駄目なんです。ここに、どうしても学びたい教授がいるんです」

「なんでまた、急に」

 少し嘆くように呟かれたその言葉は、微笑んでかわした。

「大丈夫、がんばりますから」

 そうして、一度頭を下げると、教室へ戻る。担任が諦めに似たため息をついたのを、背中で感じた。

 ケータイが震える。

 取り出すとメール。「遅くなってごめん。今日は何もないけど、どうしたの? なんかあったの?」最後の畳み掛けるような問いかけに警戒されているかな、と苦笑した。

 何もないならしょうがない、律儀に誘いに出かけよう。断られたらそれはそれで。

 掃除当番には当たっていないので、鞄をとると教室を出た。


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