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調律師  作者: 小高まあな
第四章 もう、人間じゃない?
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2−4−2

「おはよう、榊原君」

 ハートマークがたくさんついた声で話しかけられ、龍一はもう一度ため息をついた。

 何も、下駄箱の前で捕まらなくても、どうせ席隣なのに。

「おはようございます、西園寺さん」

「やん、杏子って呼んで」

 誰が呼ぶか。

『おー、今朝もモテモテだなー、少年』

 どこから現れたのか、ちぃちゃんがにやにや笑う。それを睨みつけた。

『おお、怖っ』

 言葉と顔が一致していない。

 隣で杏子はマシンガントークを続ける。

 ため息。

 昨日の翔ではないが、こんなことをしていては沙耶に認めてもらうとか、追いつくとか、そういうことは出来ない気がする。ただでさえ、年齢っていう差があるのに。

「おはよう」

 教室に入ると、本を読んでいた翔が、何故か仏頂面で言った。その仏頂面が昨日の気まずさを隠そうとするものだと思うと、少し笑えた。

「おはよう」

「ふーん、争うのはやめたの?」

 後ろから声をかけられる。

「あ、こずちゃん、おはよー!」

 隣で杏子が高い声をあげる。

「争いって」

 振り返ると、海藤こずもが何故か挑むようにこちらを見ていた。

「てっきり仲が悪いのかと思ってた」

 唇を小さく歪め、それだけ言うとこずもは自席へ向かう。

 なんか、嫌われている気がする。彼女の親友に対して冷たい態度をとっているからだろうか、と、相変わらず隣ではしゃいでいる杏子を見る。

 目が合った。

 ものすごく嬉しそうな顔をされた。

 慌てて視線をそらすと、自分の席につく。席についたところで、隣には杏子がいるのだけれども。

 隣で一生懸命話しかけてくる杏子の話に、かなり適当な相槌をうちつつ、ケータイを取り出す。

 本日最大の懸案事項。

 メール作成画面を出す。宛先選択、大道寺沙耶。件名は、とりあえず「おはようございます」とかで。

 何て打とうか悩んで、打ったり消したり。

「榊原君、誰にメール?」

「ちょっと」

 ここで嘘でもカノジョ、とか言えたらこの状況は変わるのか、と一瞬思う。でも、それは彼女に失礼だ。

 最終的に出来た文章は、「今晩、なんか予定ある?」になってしまった。なんか、ストレート過ぎる気もする。出来れば出張とかであればいいのに、円さんとかと食事でもいい。この際、ライバルであるところの一海直純とでも構わない。と思いながら、送信。

「ほれ、席付けー」

 ちょうどいいタイミングで、担任が入ってくる。ケータイをポケットにしまう。

 担任が教壇で今日の予定を説明する。新学期二日目は、まだ授業というような、授業はない。

「そうそう、進路希望調査表、配るから書けよー」

 藁半紙が配られる。

「進路かー、榊原君はどうするの? どこ行くの? 何学部?」

 杏子が隣で話しかけてくる。

 その、紙を睨む。

 進路。昨日、一晩考えた。

 ボールペンをとると、迷う事なくその進路を書き込み、ついでに杏子に見られないように裏返した。

 決めたから、もう、迷わない。


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