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調律師  作者: 小高まあな
第三章 宗教風の恋
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2−3−4

 あんなに仲良くなっていて、本当に祓えるのだろうか、というのが翔の常日頃からの疑問だった。

 今日も五月蝿かったし、聞いてみよう、と軽い気持ちで思っていた。だから、

「あの、聞いていいのかわかりませんけど。沙耶さん、約束、覚えていますか?」

 瞬間、沙耶の表情が凍り付いた。足が止まる。

 すぅっと息を吸い込んだところで、動きが止まる。

 すぐに失態を悟る。忘れるや覚えている、は大道寺沙耶には禁句なことぐらい、翔でも知っていた。

 彼女に憑いている龍は、大人しくする代わりに彼女の記憶を喰らう。

 彼女が人一倍、忘れることを怖がっているのは、知っていたのに。

 唇を噛む。

「約束って、なんの?」

「あ、いや」

 具体的な内容を告げて、彼女が覚えていたならばなんのことはない。それでも、万が一忘れていたら? 彼女の記憶が失われていたら?

 どうやってフォローするか悩んで口を開き、

「あれ、沙耶ちゃん?」

 かけられた声に振り向く。

 グレーのスーツ姿の、長身の男性が立っていた。

「あ、……新堂さん」

 一瞬のタイムラグのあと沙耶が微笑んだ。

「ん? 彼氏?」

 隣の翔を指差して問う。

「いいえ。知り合いの息子さんです」

「ああ、そうなんだ。こんにちは」

 微笑まれて、一応翔も頭を下げる。

「あ、沙耶ちゃんさ、ここだけの話、あの後、円、俺のことなんか言ってた?」

 内緒話でもするかのように、男性は少し身を屈める。

「何かって?」

「いや、……親に紹介するって話、なんか立ち消えた気がして。うーん、俺って親に紹介出来ないような男?」

「そんな。ちょっと今、仕事が忙しいんですよ。それだけだと思いますよ」

 沙耶が微笑む。そうかなー? と首を傾げる。

「まあ、いいや。うん、ありがとう。時間取らせてごめんね、それじゃ」

 そういって片手をあげて去って行く。

 その後ろ姿を見送って、沙耶は一度ため息。

「誰ですか?」

「円姉の今の彼氏」

 ごめんね? と翔を見る。

「見えるんですか?」

 ひょろり、とした後ろ姿を見ながら尋ねる。対象は勿論、幽霊などが。

「見えない、と思うけど」

「じゃあ、ダメじゃないですか。大体、あんな道ばたで軽々しく、話しかけてきて馴れ馴れしい。親に紹介するって、いつから付き合っているんですか? ちゃらちゃらして、円さんはあんなののどこがいいんですか?」

 早口で言いきる。

 沙耶は、翔の珍しい長い言葉に顔色をうかがうようにして、顔をのぞきこむ。顔にあるのは、いつもの冷静さではなく、少しの苛立ち。

 ああ、そういうことか。と少し微笑む。

「翔くん、円姉のこと好きなの?」

 さらっと聞かれ、巽翔は動きをとめ、そして

「なっ!」

 一瞬にして真っ赤になった。

「納得」

 にっこり、と沙耶が笑う。

「いや、何言っているんですか!」

 噛み付く。

「え、違うの?」

 心底不思議そうに首を傾げられる。

 違うかと聞かれたら

「いや、違う訳じゃ……」

 ないけれども、でも、と口元だけで呟く。

 それをみて、楽しそうに沙耶は笑った。

「円姉は、家のことを考えて結婚しないの。出来ていないの。巽と一海で色々有るみたいだけど、翔君だったら言う事ないのにね」

 そうして、せっかくだから事務所でお茶飲んで行けば? と沙耶は歩きだした。

 慌ててその後追った。

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