表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第二章 一海家の一族
53/157

2−2−14

「お帰り、円。いや、次期宗主というべきかな?」

 玄関を開けた円を迎えたのは、父親のそんな言葉だった。

「父様、耄碌するには早すぎるわよ?」

 沙耶を玄関に招き入れながらそう言う。

 次期宗主だなんて、だってさっき諦めたばかりなのに。どう考えても直純の方が向いている。

「いや、今さっき正式に決定した」

「は?」

 慌てて父親の顔を見る。そうして、その隣の従弟と叔父の顔も見た。二人も、うんうん、と頷いている。

「何それ、聞いてないんだけど?」

「急な話だったからな。直純とどっちがなるか、っていう話だっただろう? さっき、今回の件を片付けた方が宗主、っていうことにしようという話になった」

「なんで!? 大体、そんなこと爺様達が許すわけ……」

「会議にはかけたよ」

 そうして一海の宗主は飄々と笑った。

「今回の件は冷静な思考、行動力、まあその他いろいろ試されるからちょうどいいんじゃないかってことになってな」

「でも、俺はちょっと別件で手が離せなかったんだけど」

 にやり、と直純が笑う。

「父様達、みんな、グルになって爺様達を騙したの!? 直、あんた、確かにやりたくないって言ってたけどだからって、こんな……」

 めまいがする。

「そんなの、爺様達があとで難癖つけてくるに決まっているじゃない」

「知らん」

 宗主は言い放ち、

「それは今後のお前次第だよ、円」

 優しく笑った。

 円があきれた、と呟いた。そうして自分の右手を小さく引く感触に気づく。視線を向けると、小さな小さな妹が不思議そうに首を傾げていた。

「父様達、私に一海の一番偉い人になれ、だって」

 簡潔にそうやって説明する。

「……すごい」

 沙耶が小さく呟く。

「すごくはないでしょ」

 もう一度ため息。

 今さっき、諦めたのに、手放したのに。自分よりも直純が向いていると思うのに。それでも、彼らは自分にならできると思ってくれているのだろうか? 爺様達をも納得させられると?

 もし、そう思ってもらえているのならば、

「あのね、父様、叔父様、直純」

 円は、狸どもの名を順番に呼ぶ。

 そうして、腰まである長い髪を左手で払うと、彼らを睨みつけるようにして告げた。

 睨まれながらも三匹の狸は似たような笑みを浮かべていた。

「選んだからには、きちんと私と心中しなさいよ」

「もちろん」

 その場を代表して、直純が微笑みながら答えた。

「ま、後悔は、絶対にさせないけどね」

 いつもの不敵な笑みを浮かべ、不思議そうな顔をする出来たばかりの小さな妹の頭を撫でた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ