1−1−4
「別れましょう」
そういって微笑んだ。
目の前の少年は、困惑と悲しみの中にどこか安堵を織り交ぜた顔をして立っていた。
ああ、これは夢なのだと理解できた。でも、理解できたところで何が変わるわけでもなくて、
「その方がお互いのためにいいわ」
自分は本当のときと同じ言葉を言った。
「ごめんなさいね」
そういって微笑むと、彼はあの時と同じ顔をした。泣きそうな顔を。そんな顔をこれ以上させたくなくて別れ話を切り出したのに。
同じ夢を見るたびに、彼のことを思い出すたびに思うのだ。どうしたら、彼にあの顔をさせなくてすんだのだろうかと。
「賢……」
名前を呼ぶと
「……うん?」
いつものように彼は返事をした。
「今まで、ありがとう」
「……こちらこそ」
「倖せに」
「沙耶も」
「ごめんなさい」
「俺の方こそ……」
「さよなら」
そういってもう一度微笑む。
彼は、
「ばいばい」
そう呟いて鞄を持つと、教室を出て行く。
自分は頬杖をついて窓の外を眺める。
「沙耶」
ドアから一歩外にでたところで彼は名前を呼び、
「 」
何を言ったのだろう? 消えてしまった記憶は夢の中でも空白のまま。彼が最後に何を言ったのか、思い出すことはもう、ない。
夕焼け空で、飛行機雲が消えそうで、それがなんだかにじんで見えた。それはまだ、鮮烈に覚えている。