2−2−8
「ごめんねー、沙耶」
さっきまでケーキを食べていた部屋に戻る。
「あれ?」
そこには食べかけのケーキだけが残されていた。
「どこ行ったー?」
言いながら円はテーブルクロスをあげ机の下をのぞく。
「そこにはいないと思う、よ?」
思わずつっこむと、
「いや、子どもの考えることってわかんないから」
真顔で返された。やっぱり多少はためらって欲しいような気がしてきた。
「あ、ちょっと」
廊下の使用人をつかまえる。
「沙耶、知らない?」
「先ほどあちらで」
そういって二人が歩いてきた方を指差す。
「お見かけしましたが、大道寺様と」
「あんなのに様は要らない!」
円が大声をあげる。
「えっと……」
「ごめんなさい、続けて」
円を一歩下がらせて、続きを促す。
「その、お会いしていたのではないのですが?」
「沙耶ちゃんも?」
「ええ、てっきりそうなのだとばかり……」
小首を傾げる。
「ありがとう、お仕事に戻ってください」
使用人は一度頭を下げると歩いて行く。
「廊下で、見かけたって、あの子、まさかさっきの聞いていたんじゃ?」
円が血相を変えて、叫ぶ。
「いや、それはまずいだろ」
大道寺の言葉を思い出す。
「あの……」
「何っ!?」
かけられた声に慌てて振り返る。さきほどの使用人が
「玄関に、沙耶様の靴がなかったんですが……」
「私、外探してくる!」
怒鳴るようにして言い残し、円は外にかけて行く。
「あ、ちょ」
直純の静止の声も届かずに。
「どっちにいったかの予測ぐらいたててからにすればいいのに」
直純は無鉄砲で、だからこそ優しい従姉を思い、小さく笑う。
「宗主と父に連絡をお願いしていいですか? あと、手の空いている人間で家の中を一応探してください」
かしこまりました、と一礼し、使用人は早足で去って行く。
「さてっと、冷静な部分はちゃんとフォローしないとな」
と、自分の式神を呼びだした。