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調律師  作者: 小高まあな
第二章 一海家の一族
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2−2−5

 気まずい。

 無言で後ろをついてくる沙耶の気配を感じながら、円は前だけを見て歩いた。

 そもそも、小さい子どもの扱いには慣れていなかった。一つ屋根の下に暮らしている分家の年下の子ども達もいることにはいるが、彼らはみな、宗主の娘である円を崇拝の目で見ていた。したがって、子ども達の方が円に気を使うような関係で、

「恨むわよ、父様」

 小さく唇だけで呟く。

 こんな無口な、それも厄介なことになっている子どもの扱いなんて無理だ。どうしたらいいかわからない。何か話しかけてあげるべきなんだろうか。佐知代叔母様ってすごい。

 などと思っている間に、目的の部屋につく。

「どうぞ」

 襖をあけて促すと、沙耶はおっかなびっくり足を踏み入れた。

 普段使われていなかったその部屋は、綺麗に掃除され、布団と折りたたみ式の小さな机がおいてあった。さすが、うちの人は仕事がはやい。

「ここ、使って」

「……はい」

「なんかあったら、適当に外に出れば多分、誰か居るから」

「……はい」

「隣、私の部屋だし」

「……はい」

「なんか、ある?」

「……」

 無言で首を傾げる。

 元来、さばさばした性格の円には、この手の会話はつらかった。うじうじするな! と言いたくなる。実際、この子がなんでもない、ただのクラスメイトだったら言っていた。

「うん、じゃあ、まあ、そんな感じで」

 そうして逃げるように襖を閉めると、直純たちのところへ戻った。


「円ちゃん、ちゃんとお話した?」

「怒ったりしてないだろうな?」

 戻った円に向けられたのは、叔母と従弟のあからさまな疑いの眼差しだった。

「なんだと思ってるのよ、私のこと」

 言いながらも、図星なので肩をすくめる。

「はい、しか言わないんだもん。どうやってコミュニケーションとればいいのか」

「混乱してるのよ」

「それはわかるけど」

 頭で理解しているのと、感じることができるのは違う。一般人が、なんらオカルト的なことに関わりのない生活を送ってきた人々が、突如それに巻き込まれる。その時の心情を感じることはできない。生まれてきたときから、人ならざるものがいるのは、当たり前で、そしてそれは彼女にとってたいした脅威ではなかったから。

 同じように、感じ取ることができない直純も困ったような顔をする。

「それはもう、経験ね。二人とも、次代の一海を背負って行くのだから、ここできちんと彼女と向き合うことね」

 そういって、佐知代は微笑んだ。

 二人はただ顔を見合わせた。


 結局、その後お茶に誘った時も、夕飯の時も、入浴の時も、寝るまで沙耶の語彙には「はい」しか現れなかった。

 そして、今回のことをどうやって説明するか、は一日放っておかれた。彼女自身が覚えているのかどうかが確認がとれないままだったから。

「覚えてる? って聞く?」

「はい、って言われても、首傾げられても困るだろ」

 本当にまるまる全権を委任された二人は、廊下の端で会議をする。それを、通りすがる大人達が、どことなく微笑ましそうに見ているのがしゃくだった。

「最終的にはちゃんとフォローできるだけの算段があるのよ。私たちが間違った方に進もうとしたらちゃんとただすつもりなのよ。性格悪い」

「しょうがないだろう。あの子を危険な目に遭わせるわけにはいかないし、仮にも預かってるんだし」

「違うわよ」

 当たり前のことを呟く直純に

「わかってないの? どうせ失敗するんじゃないかって思われてるのよ? 私たち、見くびられてるのよ」

 もう、サイテー、と髪を払う強気な従姉に思わず苦笑する。実際問題、何一つ出来ていなかった。何一つ役に立っていないことをわかっていないような愚鈍な円ではなく、分かった上でのサイテー発言に苦笑する。そうやって強気な従姉は自分を追いつめて行くのだ。突っ走って行く彼女は強いけれども、その分自分は冷静でなければならない。

「ぎゃふん、って言わせないとな」

 分かった上で台詞にのっかると

「直、あんたそれ、死語」

 冷たく言葉を返された。

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