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調律師  作者: 小高まあな
第二章 一海家の一族
43/157

2−2−4

 大道寺沙耶。

 それが、龍憑き少女の名前だった。

「裏でも表でも活躍しているって評判の、最近急成長の大道寺グループ」

 手元の資料を見ながら、直純が言う。

「そりゃー、恨みつらみを買ってるだろうな」

「それが子どもにいく、っていうのは正直最低だけどね」

 少女についていた龍は、大道寺グループやその社長に向けられた恨みつらみなどが具現化して形を得たものだった。

 発現したのは今回が初めてだが、恐らく生まれた時からある程度の形はあったのだろう、というのが巽も一海も共通した読みだった。

 最初は小さな形だったものが、グループの成長に伴う恨みやつらみ、そして大道寺沙耶自身の負の感情に反応して成長した。

 良家の子息が通う私立大附属小学校。無邪気な子どもほど残酷で、両親の日々の愚痴や顔色など、酷い場合には直接的な示唆から自分が仲良くすべき子とそうではない子を見極める。

 大道寺家は、「成金」と呼ばれていたらしい。強引な方法で唐突に大きくなったグループに対してのいい評判はなく、知らず知らずにはじまった子ども達の大道寺沙耶へのイジメ。

 それが、龍の形成に拍車をかけた。

 そして今日、いつもと同じと言えば同じの、何かが違うとしたら口だけではなく手が出てしまった子ども同士の喧嘩によって、龍は確実な形を得て、具現化し、暴れた。

「……まあ、わかんなくもないわね。女の子のイジメって陰湿だし」

 思うところがあるのか、円が唇を歪める。

「ああ。だれも、こんなことになるとは思わなかったろうな」

 現れた龍は一通り暴れ、まだ不安定だったことが幸いし、自然に大道寺沙耶の体内に戻っていた。

 生まれてから数年かけて完成した龍は、もはや彼女の体の一部となり、祓ってしまうことは不可能で。

 それはつまり

「これから先の長い人生、これを負うのは大変だな」

 直純が呟いた。

 暴れた龍は、小学校を半壊させ、数十人に重軽傷を、そしてイジメの主犯格をふくむ3人が死亡させた。

「これを、ね」

 報告書の該当部分を指で軽く叩くと円も頷いた。

「覚えていたら、最悪よね」

「覚えていなかったら?」

「それも、最悪」

 横から覗き込んでくる直純に報告書を手渡すと、

「覚えていなかったら、あの子がおきた後、誰がどうやって説明するの? どこまで?」

 円の言葉に、直純は渋い顔をした。


 結論からいうと、二人の心配は危惧に終わった。

 大道寺沙耶が目覚めた、という知らせを聞いて重い腰をあげて二人が向かった先で見たものは、

「うふふ、みてー、可愛いでしょー」

「佐知代叔母様」

「母さん」

 ふりふりのワンピースを着せられて目を白黒させている沙耶の肩に両手を置いて、笑う一海佐知代。直次の妻、直純の母である。

「だってー、円ちゃん、こういう服着てくれなかったじゃない。直、男の子だし」

 女の子が欲しかったのよー、ふりふりワンピ、と歌うようにいいながら、佐知代は沙耶の髪の毛をとかしつける。

「母さん、困ってるじゃないか」

 息子の言葉に、あら、と声をあげ

「あら、迷惑だった? ごめんね、沙耶ちゃん」

 沙耶を自分の方に向かせ、顔を覗き込む。沙耶はうつむいたまま首を傾げた。

「沙耶ちゃん、あのね、私の名前は一海佐知代」

 自分の鼻を指でさす。

「それで、あっちが私の息子の直純と、姪の円」

 紹介された二人は慌てて一度頭を下げる。

「沙耶ちゃんね、今日から、うーん、とりあえずしばらくうちにお泊まりすることになるんだけど、大丈夫?」

「……はい」

 小さな声の返事に、佐知代は微笑む。

「直と円ちゃんが沙耶ちゃんのお世話してくれるから、何かあったら二人に言ってね」

「……はい」

 佐知代は沙耶の頭を撫で、

「とりあえず、お部屋に行きましょうか。円ちゃん、貴女のお部屋の隣に案内してあげて」

「あ、はい」

 佐知代のペースに流されそうになりながらも、沙耶を手招きする。

「おいで」

「……はい」

 沙耶はゆっくりと、円の後をついていく。

 その後ろ姿を見送ると、

「母さん、あの子、記憶は?」

「わからない」

 ゆっくりと首を振る。

「起きた瞬間に取り乱しはしなかったし、着替えましょうかーっていうのにもはいって答えたし。完璧に記憶が残っていたらああはいかないと思うけど。でも」

 そして息子を見つめ、

「あの子、寝ている時うなされていた。ちゃんと、見てあげてね?」

 母の言葉に一つ頷いた。

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