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調律師  作者: 小高まあな
第二章 一海家の一族
42/157

2−2−3

「つまり」

 巽の宗主、巽祥太郎の説明を聞き終わり、円は虚空を睨みながら話をまとめる。

「さっきの騒動は、小学生の女の子に取り憑いている龍の仕業だ、と」

 巽の宗主は重々しく一つ頷く。

「で、その子に憑いている龍は祓えないらしい、と」

 もう一度頷く。

「で、巽は基本的に祓うことを生業にしているから、どっちかっていうと共存を目的としている一海に頼みたい、と」

「円、言葉遣い」

 あまりにざっくりと、フレンドリーに話す円に直純が横から声をかける。律儀な従弟に小声で、小姑か、と返しておいた。

 巽とは家同士の仲が悪いながらも、巽の宗主個人はとてもざっくりとしていてフレンドリーで、かつちょっと変人だった。これぐらいで怒るような人間ではない。

「そういうことでよろしいのですか?」

「ああ」

 巽の宗主は重々しく頷いた。

「いや、しかし一海の姫直々に来て頂けるとはありがたい」

 誰もが影で口にするけれども、本人を目の前にしては誰も口にしない「姫」という言葉。それを、本人を目の前にして、なんらてらいもなく言えるのが、巽の宗主である。

「なぜですか?」

 円の問いかけに、後ろにいた直一が言葉を発する。

「あのな、二人にその子の面倒をみてもらいたいんだ」

「なぜですか?」

 聞き返したのは直純。円は露骨に不機嫌そうな顔をした。

 そういう面倒なことを嫌う娘の性格を重々承知していながら、直一は続ける。ああ、うちの娘はこれ言ったら怒るだろうなー、とか思いながら。

「お前らが一海で一番年が近くて適任だ。さすがに、二人よりも年下の分家には頼めないしな」

「何よ、それ!」

 案の定、噛み付く円。それだけの理由なわけ?

「お言葉ですが、宗主。いくらなんでも荷が重過ぎます」

「全部見ろ、と言っているわけじゃない。一応、主体となってその子の相手をしてやれ、ということだ。小学生を大人の中に放り込むわけにはいかないだろ」

 言われて、中学2年と3年の二人は顔を見合わせる。小学生と同一視されるのは少々心外な年頃だった。

「一海を継ぐのは二人のうちどちらか、だ。おそらくな。一人で、とは言わないが、そろそろ二人で一つの案件ぐらいこなしてみせろ」

 文句を言おうにも、そうやって畳み掛けられると上手い言葉が返せない。それでもなお、口を開こうとした円を

「私の家で、一海の次期宗主の話をされるのは、いささか心外なのだが」

 のんびりとした巽の宗主の言葉が遮った。確かに、一海本家の人間として見苦しいところを見せた。それぐらいの分別はある円は、おとなしく口を閉じ、座り直した。

「ともかく、お二人にお任せしたい。姫さんなんかは、他人に尻拭いをさせるはプロとしてどうなんだ、とか思っていそうだが、まあそれは適材適所、ということで。身内の恥をばらすようだが、巽にはあの子は荷が重い。口には出さなくとも祓えないならば殺してしまえ、などという物騒なやからがいるかもしれないからな」

 恐ろしいな、と小さく付け加える。宗主といえども個人の意思で簡単に方針が変えられる程、根付いた思想は脆くない。

 わかりました、と円は答えた。

 腰まである長い髪を左手で払うと、微笑んでわざとらしく三つ指をついた。

「その件は、一海でしっかり預からせて頂きます」


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