2−2−2
「直次叔父様!」
廊下の隅で数人と話し込んでいる直次に声をかける。二人に気づくと、一海直次は軽く左手を挙げた。
話し合いが済み、各々がそれぞれの場所に散って行くのを見計らって、二人は直次の元へ駆け寄って行く。
「父さん、今のは?」
「龍が現れたらしい」
「龍?」
「ああ、場所はそこにあるだろ、付属小。あそこら辺らしい」
円は脳内に地図を思い浮かべ、
「じゃあ、場所的には巽の管轄?」
姪の言葉に直次は一度頷くと、
「ああ。だが、まだ事態がよくわからん。二人ともとりあえず動けるようにはしておいてくれ」
「はい」
「わかりました」
二人は頷くと、一度自室に戻ろうと歩き出し、
「円」
かけられた声に振り返る。
「兄さんは、義姉さんのところか?」
「はい」
そうか、と直次は呟き、
「しょうがない、兄さんが帰ってくるまでは仕切るか」
心底面倒そうに呟くと、部屋の中に入って行く。
その後ろ姿を見届けると、円は隣の従弟に
「直次叔父様は、なんであんなにリーダーシップをとるの嫌がるのかしら?」
「俺は厭だからわかるけどなー」
「何言っているの、次期宗主」
「いや、それは円だろ」
「あのね」
暢気なことを言う従弟に、宗主の愛娘は左手の人差し指を突きつけた。
「女が宗主になるなんて、爺様達が許す訳ないじゃない」
保守的な老人衆の事を思い浮かべ、ふんっと不満そうに鼻を鳴らすと、円は歩き出した。そんな従姉の後ろ姿を見つめ、ふぅと直純はため息をついた。
どう考えても、リーダーシップをとる適正は自分よりも従姉の方にあるし、人望だって彼女の方に分がある。
「性別とか、くだらないの」
彼にしては珍しく、冷たい声で吐き捨てると従姉の後を追った。
「円、直純」
着替えて広間にあつまった二人を一海の宗主、直一が呼んだのは、事態が起きてから二時間近くたってからだった。
「ちょっといいか?」
一海の宗主の言葉に、直純はすくっと立ち上がる。怠惰な猫のように寝転がっていた円も、すぐに立ち上がった。
広間を出て、廊下を歩く。
「悪いが、二人とも一緒に巽まで付いてきて欲しい」
「巽に?」
「ああ」
「なんで」
「ちょっと、厄介なことになった」
苦々しく呟く宗主に、背後で二人は顔を見合わせた。