表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第一章 恋も病熱
39/157

2−1−4

「おはよう、翔君」

 待ち合わせ場所である駅前で、大道寺沙耶の姿を見かけると、翔は少しだけ眉をあげた。

「珍しいですね、沙耶さんなんて」

「円姉、別件があるから」

 行きましょうか、と歩き出す。

 月に数回行われる、巽と一海の合同捜査。大抵の場合、一海の担当は円だが、今日は珍しく沙耶が担当だった。

「翔君、龍一に会った?」

 歩きながら沙耶が尋ねる。

「ええ、同じクラスでした」

「あら」

 沙耶は少しだけ驚いて隣の少年を見ると、

「仲良くしてあげてね」

 無理そうだなー、と思いながらもそう声をかけた。

「それは、向こう次第ですね」

 しれっと、翔は答えた。


 調律事務所と書かれたドアの前で、龍一は一つ大きく息を吸った。

 足手まといかもしれない、それでも、俺は、ここに来たいと、役に立ちたいと、そう思う。

 自分の中でそう結論づけると、いつもより少しだけ勢い良くドアをあけた。

「こんにちは」

 出来るだけ微笑みながら中に入ると、そこにいたのは円だけだった。

「あら、こんにちは」

 ちらり、と入り口のホワイトボートを見る。沙耶の欄には合同調査0415と書かれている。

「沙耶ならさっき出て行ったところよ。待っていれば帰ってくるけど、どうする?」

「待ちます」

 いつもならば、そのからかいの言葉に反応するところを即答した。あら、と円が小さく呟いた。

「珍しく素直じゃない。どうかしたの?」

「合同調査、って巽翔とですか?」

「ええ」

 円はペンを置き、頬杖をつくと龍一に向いの席に座るように勧めた。

「会ったの? 巽のおぼっちゃまに」

「同じクラスでした。俺はもう、ここには来ない方がいいと言われました。足手まといになる前に」

 龍一の言葉に、円は一つため息をついた。

「ほんと、おぼっちゃまはおぼっちゃまなんだから。昔からそういう物の言い方する子だから、気にしなくていいわよ」

 龍一は首を横に振った。言われた事だけは、確かに事実だった。

「円さん」

 事実だから、こそ、

「なぁに?」

「よかったら、でいいんですけど、沙耶の昔の事とか。そういうの、差し障りのない範囲でいいので話してもらえませんか?」

 事実だからこそ、少しでも近づける自分でなければならない。開いた距離も少しでも縮まるように、せめてこれ以上開く事がないように。

 それはある種の覚悟の現れで、

「いいわよ」

 円はゆっくりと微笑んだ。

「本当に一番最初、沙耶がうちに来た時のことでいいならば」

「お願いします」

「後戻りは、出来ないわよ?」

 頭を下げる龍一に悪戯っぽく笑う。

 そうして円は祈るように指をくんだ。

「あれは、今から何年前かしら? 私と直純が中学生の時。今よりももう少しあとぐらいの時期、ハナミズキの季節だった」

 そうしてゆっくりと話始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ