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プロローグ
あの家にはじめて訪れたとき、庭にはたくさんのハナミズキが咲いていた。
あたしは、その後の人生をあの家で過ごした。
ハナミズキは何度も、何度も、花を咲かせ、散って行った。
ハナミズキは、すべてをみていた。
都立瀧沢高等学校新三年生の榊原龍一は、クラス発表の紙を一組から順番に目を通していた。「さ」とか中途半端で探しにくい、と彼はいつも思う。いっそ「あ」とかから始まってくれれば、一番上を探すだけで済むのに。
三組のところでやっと自分の名前を見つけ出した。ざっと下まで目を通す。友人も何人かいるようで、ひとまずそれには安堵した。
三年間変わることのない、使い慣れた下駄箱から上履きを取り出し履き替えると、三階に向かう。
『おお、こっくりさんに憑かれた兄ちゃんが来たぜ!!』
階段を上っている途中で、幼い男の子の声がして一気に龍一は眉をひそめた。
『少年よ、何組だ!?』
右手の指を三つ立てる。
『そうかそうか、三組か! よっし、今年は三年三組に入り浸ろう!!』
龍一の周りをうろうろと飛びながら、学生服を着た幽霊“ちぃちゃん”は笑った。