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調律師  作者: 小高まあな
第五章 櫻の樹の下には
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1−5−6

「一海円に連絡したんだ」

 にこにこと軽薄そうな笑みを浮かべる。何にも変わらない親友の笑みから清澄は目をそらした。

 沙耶は頭を抱えたまま動かない。そんな沙耶の右手を握り、背中をさする。

「なら、円さんが来るまで話をしようか」

「聞くと思うのか?」

「聞かざるを得ないと思うけど?」

 右手の人差し指にひっかけたドッグタグをくるくると回す。

「沙耶を守って、清澄を守って、一人で勝てると思うわけ? 一海直純」

 直純は舌打した。それは事実だ。下手に動いて沙耶を刺激するとまずい。

「納得いただけてよかった」

 慇懃無礼に、胸に手を当てて一礼する。もう一度舌打した。

「俺はこの」

 そういって傍の桜の木を一度叩く。

「桜の木に封印されている、ぶっちゃけちゃえば悪霊でね。だんだん封印も弱まってきて、こうやって姿をあらわすことが出来るようになったんだけど、やっぱりまだまだ弱くて、この木から離れられない。だから、誰かに封印をといてもらおうと思ってさ」

 けらけら笑いながら桜をもう一度叩く。

「大道寺沙耶のことは、この桜のおかげで知ったんだ。この桜が時期を間違えて咲きだした時に来ただろう? なぁ、沙耶」

 優しい笑顔を顔に浮かべる。沙耶へ向けた視線をさえぎるように直純が立ち位置を変えた。

「相変わらず嫉妬深いね、直純さん」

 嫌味に直純はふん、と鼻で笑った。

「人の心が読めるんだな」

「そう、心というか記憶だね。そこにもぐりこめる。大道寺沙耶のことはこの間のことで全て知ったよ。勿論、彼女が覚えていることだけだけどね」

 そこで嗤う。

「忘れてない!」

 沙耶が突然叫んだ。

「あたしは、まだ、忘れてない。賢のことは、まだ」

「そうだね」

 もう一度優しく、堂本賢治の姿をした者は堂本賢治の笑みを浮かべる。

「沙耶は忘れていなかった。だから、利用させてもらったんだ。堂本賢治の姿を。君を利用すれば、この桜ごと封印をといてくれるだろうと思ったんだ。力もためられそうだしね」

「……最近発見されていた死体は」

 低い声で直純が問う。

「うん、俺。大道寺沙耶の職業は知っていたからね。事件を起こせばきてくれるだろうと思って。人間の精気を奪えれば、力も蓄えられるしね。その人間の記憶に侵入して、その人間の最も大切な人間に姿を変え、油断させ、つけこむ。あくどいねぇ、我ながら」

 くっくと、おかしそうに嗤う。

「本当ね」

 相槌が聞こえた。

「遅いぞ」

 安堵の息とともに、直純が呟いた。

「これでも急いだのよ。さて、うちのお姫様にちょっかいをだすなんて、いい度胸してるじゃないの」

 一海の次期宗主、影で一海の女王と呼ばれている一海円が、太陽を背に不敵に微笑んだ。

「完璧ヒーローのタイミングだね、円さん」

「お褒めに預かって光栄だわ、偽者さん。趣味の悪い格好しているのね」

 ゆっくりと微笑する。

「大道寺さん!」

 その後ろにいた龍一が、蹲っている沙耶の方にかけていく。

「なるほど、君が榊原龍一か」

「だとしたら、何?」

「いや、別に」

 堂本賢治の姿をした者は肩をすくめた。

「本物の堂本賢治がみたら、なんていうかなぁと思って」

「っ!」

 沙耶がびくり、と顔をあげる。

「あ……」

「沙耶」

 円はそちらに顔を向けずに告げた。

「聞き流しなさい。所詮、贋作の戯言よ」


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