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調律師  作者: 小高まあな
第五章 櫻の樹の下には
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1−5−2

 ああ、またこの桜か。

 目の前の桜を見つめながら沙耶は思う。

 少し前、梅が咲き出すころの話。周りが梅ばかりのこの丘に、ただ一本の桜は、梅が咲くころに焦って咲き出してしまった。本当はまだ、眠っていてもいいのに、周りの梅に置いていかれないようにと、焦って咲きだしてしまった。桜とも梅ともつかぬ、不恰好な花をもう一度休眠させる。それを担当したのは沙耶だった。

 似ていると思った、その時の感情を今でも覚えている。その桜は自分に似ていると思った。置いていかれることを嘆く、どうにかして周りと同化したがる、その桜は自分にとても似ていると思った。

 桜を見つめながら沙耶は思う。

 でも、この桜と違い、何度も花を咲かせることはない。一度散ったら、死んだらそこで終わりだ。

「沙耶」

 隣の清澄が少し心配そうにかけてきた言葉に、我にかえる。

「平気」

 そう答えると、桜を見上げた。

 №100326。桜の怪。櫻の樹の下には屍体が埋まっている。最近、連日この桜の木の下で死体が発見される。

「櫻の樹の下には屍体が埋まっている、か。梶井基次郎ね」

 目立つ外傷もない、病死でもない、ただただ変死という言葉が似合うその死体。

 ああ、この桜は一体なんなのだろう? どうしてこうも、縁があるのだろう。

 そう思い、もう一度だけ桜を見つめた。

「やあ、沙耶、久しぶり」

 声は唐突に、後ろからかけられた。

「……っ」

 振り返らなくてもそれが誰なのかわかってしまった。耳に馴染む、男性の声。

「堂本……?」

 隣で清澄が呟いた。

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