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調律師  作者: 小高まあな
第五章 櫻の樹の下には
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1−5−1

「おはようございます」

 すっかりなれた調子で龍一は事務所のドアを開ける。

「おはよ」

 ゆるりと微笑んで迎えたのは円だけだった。

「すっかりなじんでるわね」

「それは、まぁ、毎日来てたら」

 言いながら自分の名前の横にマグネットをかち、とつける。

「みんな外、なんですね」

 ホワイトボードを眺めながら呟くと、円は一つ頷いた。

「残念ね、沙耶が居なくて」

「それは……まぁ、でも」

 龍一はホワイトボードから円に視線を移すと真顔で言い切った。

「直純さんが居ないならなんでも有りです」

「……君もなかなかすごいわよね」

 円が呆れたように口元を歪めた。

「あそこまで露骨に避けられたらもう」

 龍一は首を横にふる。

「まぁね、」

 円は呟き、煙草を一本引き抜いた。

「まぁ、アレは酷かったわよね」

 煙草に火をつけながら円が答える。

「いっそ、清々しいともいえますけどね」

「その癖、沙耶が居るところでは調子よく振舞ってたしねぇ。まぁ、多分」

 煙を吐き出す。

「あいつは認めたくないのよ。沙耶が、君を認めたことを。あの子が認めた人、君で三人目だから」

 煙越しに、沙耶のデスクに座った龍一を見て微笑む。

「だから、あいつは嫉妬しているんでしょうね。一応ね、私たち、一海の人間は信頼してくれているみたいなの。でも、それがあいつは嫌なのよ。一海という姓の外で、あの子に認めてもらいたがってるの」 

 ロミオじゃあるまし、と笑う。

「だからね、嫉妬しているのよ」

 もう一度呟くと、灰を灰皿に落とす。

「認めてくれているんですか?」

「ええ。じゃなかったら、もっと強引に君がここに来ることを反対したでしょうね。出会い方が特殊だった、ということを差し引いても、あの子が仕事にここまで深く他人を関わらせるなんて認めた証拠よ」

 龍一はなんともいえない顔で円を見た。

 それから一度視線をそらし、何かを思案してから呟いた。

「一人は、清澄ですよね?」

「沙耶が認めた人? ええ」

「それじゃぁ」

 龍一は一度息を吸い込むと、顔をあげ、意を決して尋ねた。

「もう一人って誰なんですか?」

 円はしばらく黙って煙草を吸っていた。龍一は黙ってそれを見ている。

「聞きたい?」

 ゆっくりと円が呟く。

「はい」

 煙草を灰皿の上で上下させると、

「あの子の、昔の恋人よ」

 端的に告げた。


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