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調律師  作者: 小高まあな
第八章 僕はおもてで呼んでいる
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4−8−7

 中庭にでる。

「巽のおぼっちゃま」

 気遣う様に声をかけられる。

「お見合い、なんでするんですか?」

「なんでって……」

 腕を掴んで、背中を向けたまま話をする。

「この間、言ったじゃない」

「一海を守りたいなら、巽と手を組めばいいじゃないですか」

 振り返る。

 本当に困ったような顔を彼女はしていた。演技なんかじゃない、本当に困った顔を。

「だって、巽のおぼっちゃまは次期宗主じゃない」

「それがなんですか」

「……一海と巽は仲悪いじゃない。まあ、一海はもともとどこともあんまり仲良く無いけど」

「それがなんなんですか?」

「巽のおぼっちゃま」

 嗜められるように言われる。

「それで、好きだって言ってる人間に諦めろっていうんですか? 榊原のことはあんなにけしかけているのに」

 彼女は何も言わない。

「円さんの恋愛対象に僕がはいっていないことぐらいわかってます。だから」

 黙ったままの彼女をきっと見つめる。にぎったままの腕を思い出して離す。

「あと二年だけ待っていてください」

 指を二本たてて突き出す。

「二年までに円さんの恋愛対象に入って、なおかつ一海と巽の関係を改善させます」

 言い切る。二年経てば自分は成人している。そうすれば、きっともっと出来る事が増えているはずだ。

 沈黙。

 風が少し長くなった円の髪を揺らした。

 そして、

「……まあ、二年ぐらいならどうにかできるか」

 ため息と一緒に円が吐き出す。

「二年だけよ? おねーさん、それ以上経つと本気で婚期逃すことになるから」

 今だってぎりぎりなのに、と小さく呟いている。

「円さん、年齢よりもお若いですよ」

「ありがとう、ぴっちぴちの高校生に言われるなんて嬉しいわ」

「もうすぐ大学生です」

 言うと円は薄く笑った。

「そうね。君等ぐらいの年齢なら1、2年で多大な成長をするものね」

 そうして、笑み崩れた。

 とてもとても、楽しそうに。ただただ、綺麗に。

 それに息をのむ。

 でもそれは一瞬で、円はいつものシニカルな表情に戻ると翔に背を向けて母屋へ向かう。

「って、円さん!?」

「了解はしたけどね」

 立ち止まって振り返る。

「二年ただ君を待ってて、君が成長しなかったらどうするの。人生は有限なんだし保険かけとかなきゃ。それに、お見合いの場から、このまま立ち去るわけにいかないでしょう。どっちにしろ」

 数歩戻って翔の前に立つ。

「二年もかけて、他の男に負けるようじゃそれまででしょう?」

 挑む様に言われて、

「負ける分けないじゃないですか」

 咄嗟に切り返す。

 よしっと、円は唇をゆるめた。

「それじゃあね、翔くん」

 いつもしていた煙草の匂いがしない左手で頭を軽く叩かれ、呆然としたまま立ち去る円を見る。

 もう円は振り返らない。

「……翔くん、って」

 初めて呼ばれた名前に、それだけで鼓動が早くなる。

 こんなんじゃ二年なんてあっという間だろう。しっかりしろ、自分。

「……とりあえず、お見合い関係者には謝らないとな」

 ため息混じりに呟くと、歩き出した。

 イマイチ格好がつかないが、それでも上出来だと思えた。知らずに緩む口元を、こっそり右手で隠した。

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