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一海円のお見合いの相手は、どこぞの陰陽師の傍系の次男らしい。なるほど、一海の次期宗主の結婚相手としては、そこそこいいだろう。
沙耶から聞いた情報を頭の中で反芻する。
だから、なんだというのだ?
お見合いの場所は、近くの料亭。巽の集まりでもよく利用する、この世界御用達のお店だ。
「あら、巽様」
「失礼します」
微笑む女将に、一度だけ頭を下げると、そのまま上がり込む。
「巽様っ?」
後ろからの制止の声は無視する。
どこの部屋で行われているのかも、調べを付けた。そこら辺にいる霊に何かを尋ねたのは初めてだったが、意外にも彼らは快く教えてくれた。だから今回は、祓うの大目に見てやる。
こんなことをしたら一海と巽の関係が悪くなる? 知るか。多分、父なら笑って許してくれるだろう。その前にみっちり怒られるだろうけど、最後は笑って許してくれる。
父は喰えない狸だ。そして、自分はその狸の息子だ。
もう一度自分の思いを確認する。目的の部屋の前にたつ。一つ深呼吸。
礼儀も何もなく、それでも一応失礼しますと声をかけて襖を開け放つ。
「巽のおぼっちゃまっ!?」
誰かと思うぐらい、きちんと正装した円が流石に驚いたような声をあげる。切れ長の目が見開かれる。
いつも驚かされて来たんだ、たまにはこっちが驚かしてやる。
「君は巽の……」
見合い相手らしき男が言う。
「失礼します」
言いながら頭を下げて中に入ると、円の腕を掴む。
「ちょっと、巽のおぼっちゃまっ!?」
「好きな人を攫いに来ました」
告げると、彼女の目がますます大きく見開かれる。そんな顔することないじゃないか。気づいていなかったとは、言わせない。
そのまま黙って腕を引っ張って部屋をでる。
誰も止めない。あっけにとられたように、誰もがこちらをただ見ているだけだ。
円も黙って引きずられる様にしながらついて来た。
その態度に腹が立つ。物わかりがいいんじゃない。子どもが何をしているのだろう、仕方がないから様子をみてやろう、と思っているのが手に取るように分かる。バカにするな。