4−8−5
ふっと戻って来た体の感覚に、一度両手を握って開く。
直純が新しく作ってくれたお守りのおかげで、もう昔みたいに誰かに体を貸したというだけで、龍が暴れることもない。
そのことを確認し、一つ安堵の息を吐く。
軽い疲労感に、背もたれに体を預ける。
それにしても、恋心はこんなにも未練になるのか、と思った。叶わないとわかっている恋でもこんなにも人を縛り付けるのか。
ケータイを取り出す。
アドレス帳から、榊原龍一の名前を呼び出す。
「あたし、今死んだら未練で成仏出来ないな」
小さく呟いた。
この未練は、自分でどうにかしなければ。
通話ボタンを押そうと指を伸ばし、
「っ」
直前で震えだすケータイに驚いて取り落としそうになった。
「もしもし? 翔くん? どうしたの?」
冷静を装ってなんとか通話を開始する。
「え、円姉のお見合い?」
電話の向こうの、いつも冷静沈着な少年は思いもかけないことを言った。
いくつか自分が知っている話を告げると、通話を終える。
「恋、怖い……」
いつも冷静沈着な巽翔に、さほど冷静ではない態度を取らせる程度には。
苦笑する。
結局、龍一には連絡する決心がつかないまま、ベンチから立ち上がった。