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調律師  作者: 小高まあな
第八章 僕はおもてで呼んでいる
151/157

4−8−4

 17時57分着の電車。たくさんの人が降りてくる。

 女性はその中から、目的の彼を迷うことなく見つけた。小走りで駆け寄る。

「あの」

 女性が声をかける。沙耶の声で。

「なにか?」

 彼が不思議そうな顔をした。

 その彼の左手に、シンプルなシルバーの指輪が光るのを、残された意識の中で沙耶は見た。

「私、貴方のことが好きです」

「はい?」

 彼は変な顔をする。

「すみません、いきなり怪しいですよね。でも、怪しい宗教とかじゃなくて」

 女性はぱたぱたと両手を振る。

「以前、具合が悪かった時、貴方に席を譲って頂いたんです。それ以来、電車の中で貴方を見かけて、ふとした仕草とか、読んでいる本の趣味とか、そういうのがいいなって」

 彼は困ったような顔をした。

「あ、あの、わかってるんです。ご結婚、なさってますよね?」

 言って、女性は彼の指輪を指した。

 知っていたのか、と沙耶は思う。

「ええ」

「ただ、どうしても言いたかったんです。言わないと私、次に進めないなって思ったから」

 急にお引き止めして、ご迷惑おかけしてすみませんっと女性は一度頭を下げる。

「うん、まあ、どうもありがとう」

 彼は困ったような顔をしたまま、それだけ言った。

 そして、足早に立ち去る。

 それをみて、女性は一つため息をついた。少しだけ、口元がゆるむ。

 さっきと同じベンチに腰掛ける。

「もう、いいんですか?」

 沙耶が尋ねた。

 女性は頷き、

「奥さんがいるの、知ってましたから。一緒のところもみかけたし。それでも、どうしても言いたかった。言わないと苦しかった。とりあえず言えた」

 そうして嬉しそうに微笑む。

「次は、もっと見込みのある人に恋しますから」

 女性は満足そうに笑ったまま、

「ありがとうございました」

 告げて、消えた。

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