表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第八章 僕はおもてで呼んでいる
150/157

4−8−3

「こんにちは」

 沙耶はホームに佇む、一人の女性に声をかけた。

「いつも、こちらに居ますよね?」

 彼女が顔だけをこちらに向ける。

「あたし、大道寺沙耶っていいます。一海の実質養子で、元調律事務所の所員です」

 彼女は首を傾げる。

「貴方の未練をはらす、お手伝いにきました」

 瀧沢高校の最寄り駅、四番ホームに佇む幽霊に向かって沙耶は微笑んだ。


『告白を、したいんです』

 ホームの端、ベンチに座ってぽつりぽつりと女性は話始めた。

 人が多くなってくる時間帯、一人ベンチに座り、小声で呟く沙耶に奇異な視線が少し向けられる。今更そんなもの、気にしたりしないけれども。

「告白?」

『いつも、帰りの電車で一緒になる人。名前も知らないんだけれども。私が具合悪い時、席代わってくれて。彼、いつもこの駅で降りるんです』

 なるほど、だからこのホームにいるのか、と沙耶は思った。最近、このホームで人身事故は起きていないのに、どうして彼女がここにいるのかがわからなかったのだ。

『結局、何も言えなかったけれども。どうしても、伝えたくて』

 膝の上に置いた、女性の手に涙が一つ落ちる。

『毎日毎日、彼が電車から降りてくるのを待っているんです。毎日毎日、彼を見かけるんです。毎日毎日、声をかけるんだけどっ』

 悲鳴のように続ける。

『私の声、彼に届かないっ』

 そのまま、女性は両手で顔を覆う。

 沙耶はそっと、その女性の背中を撫で、

「その彼、何時の電車できます?」

『え、……もうすぐ。17時57分着……』

「なるほど」

 沙耶は女性の手に自分の手をそっと重ねると、

「告白、ちゃんとしましょう? あたしの体、お貸ししますから」

 微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ