4−8−3
「こんにちは」
沙耶はホームに佇む、一人の女性に声をかけた。
「いつも、こちらに居ますよね?」
彼女が顔だけをこちらに向ける。
「あたし、大道寺沙耶っていいます。一海の実質養子で、元調律事務所の所員です」
彼女は首を傾げる。
「貴方の未練をはらす、お手伝いにきました」
瀧沢高校の最寄り駅、四番ホームに佇む幽霊に向かって沙耶は微笑んだ。
『告白を、したいんです』
ホームの端、ベンチに座ってぽつりぽつりと女性は話始めた。
人が多くなってくる時間帯、一人ベンチに座り、小声で呟く沙耶に奇異な視線が少し向けられる。今更そんなもの、気にしたりしないけれども。
「告白?」
『いつも、帰りの電車で一緒になる人。名前も知らないんだけれども。私が具合悪い時、席代わってくれて。彼、いつもこの駅で降りるんです』
なるほど、だからこのホームにいるのか、と沙耶は思った。最近、このホームで人身事故は起きていないのに、どうして彼女がここにいるのかがわからなかったのだ。
『結局、何も言えなかったけれども。どうしても、伝えたくて』
膝の上に置いた、女性の手に涙が一つ落ちる。
『毎日毎日、彼が電車から降りてくるのを待っているんです。毎日毎日、彼を見かけるんです。毎日毎日、声をかけるんだけどっ』
悲鳴のように続ける。
『私の声、彼に届かないっ』
そのまま、女性は両手で顔を覆う。
沙耶はそっと、その女性の背中を撫で、
「その彼、何時の電車できます?」
『え、……もうすぐ。17時57分着……』
「なるほど」
沙耶は女性の手に自分の手をそっと重ねると、
「告白、ちゃんとしましょう? あたしの体、お貸ししますから」
微笑んだ。