表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調律師  作者: 小高まあな
第八章 僕はおもてで呼んでいる
149/157

4−8ー2

 運ばれて来たコーラに口をつけながら、

「今日辺り、連絡があるんじゃないかなって思ってました。巽、俺の試験日程知ってるし」

「その言い方、ストーカーみたいじゃないか?」

 横で翔が少しだけ不愉快そうな顔をする。翔は推薦で既に大学を決めている。

「どんな感じ?」

「滑り止めは合格しているから、大学生にはなれます。おかげさまで」

 微笑む。

「そう、よかった」

 手元のアイスティーのストローを指先で何度も何度も弾きながら、円が笑う。

 その姿に何かいつもと違うものを感じて、龍一は少し首を傾げ、

「煙草、吸わないんですか?」

 思い至った違いを口にする。

 ここ禁煙席でもないし、いつもの彼女ならば龍一達を待っている間に火をつけていてもおかしくないのに。

「うん、煙草やめた」

 円が微笑む。少し決意を秘めたような、力強い笑みで。

「円さんは、一生吸い続けるのかと思ってました」

「さすがにね、いま一海で動いているから、父様とか五月蝿いし、決意を示すのに手っ取り早いでしょう?」

「手っ取り早いって」

 悪戯っぽく言う円に苦笑する。彼女にかかればそんなことすらパフォーマンスになるのか。

「で、ごめん。今日、龍一君に来てもらったのは、最近ちっとも連絡とってなかったからどうしているのかなって思ったのと」

「沙耶のことですね?」

 言葉を引き取る。

 円が頷く。

「受験終わったら連絡しよう、って思ってたところです。どうなるにせよ、言いたいこと、あるし」

 そっか、と円は微笑み、

「あー、過保護はやめようと思ったんだけどなー」

 自嘲気味に呟いた。

「ぶっちゃけ、私、沙耶のこと甘やかし過ぎだと思う?」

「……それは俺の口からはなんとも」

 自分自身も沙耶のことを甘やかしているというか、気を使っている部分があるので円を過保護とは言えない。

「あー」

「円さんらしくて、いいと思いますよ」

 失敗したなーと呟く円に、黙って成り行きを見ていた翔が言った。

「え?」

「円さんらしくていいと思います。円さんが気にして世話をやくのは沙耶さんのことだけじゃないですし。宗主として必要だと思います」

 真顔で翔が言う。円はしばらく翔を見ていたが、ふっと破顔し、

「ありがと。お世辞でも嬉しいわー」

 軽く言った。

 あまりにも軽い言葉に、一瞬翔が眉をひそめる。まったく言葉が届かない。

「まあ、沙耶のことはもう大人なんだし適度に放っておくわ」

 翔に気づくことなく、円が言う。

「できるんですか?」

 からかう様に龍一が尋ねると、

「がんばる」

 困った様に肩を竦め、円が答える。おどけた仕草に少し笑う。

 そのまま少し世間話を始める。途中でふっと思い出したかのように円が、

「二人には言っておかなきゃね」

「はい?」

「お見合いすることになったから。さすがにねー、もうふらふらしているわけにはいかないわー」

 さらりと言われた円のその言葉に、龍一はチラリと横目で翔のことをみやった。そうですか、と巽翔はいつも通り淡々と言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ